【前編】桜井 政成
AIが要約してくれる時代。「読書」って必要?
読書研究者に聞く
2026.10.22
AIに言葉で質問すれば、答えが返ってくる。
長い文章も、要点をまとめてもらえる。
そんな時代に私たちは自分で本を読み、読解力を身につける必要があるのでしょうか。
「本を読む人が減っている」と言われる一方で、仕事の書類やSNSなど文字に触れる場面は多くあります。AIへの指示出しや人と協力する場面では、自分の意図が伝わるように書き、相手の言葉を読み取る力がむしろ求められています。
忙しい日々のなかでAIの要約を読むことと、自分で本を読むことでは何が違うのでしょう。
『読書スタディーズ』の著者で、立命館大学教授の桜井政成さんに、AI時代に本を読む意味と「役に立つ」だけでは測れない読書の楽しみについて伺いました。
( POINT! )
- 「読書離れ」の実態は調査方法や読書の定義で変わる
- 読書への没頭は文脈から言葉の意味を理解する経験に
- AI要約に任せきりにせず、本文と照らし合わせることが大切
- 読書を楽しめるかどうかには本を選べる環境や機会も関わる
- 面白いと思える本を選ぶことが、読書への心理的な壁を下げる
- 読書から得られるものは数値で測れる効用だけではない

桜井 政成
長野県生まれ。立命館大学大学院政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。専門社会調査士。2015年より現職。2013年から2014年までトロント大学客員教授。社会学的なアプローチによりNPO、ボランティア活動、コミュニティ、読書などを研究。著書に『コミュニティの幸福論―助け合うことの社会学』(明石書店)、『福祉NPO・社会的企業の経済社会学―商業主義化の実証的検討』(明石書店)、『読書スタディーズ――本好きはどうつくられるのか』(明石書店)がある
本は本当に読まれていないのか
「本を読む人が減っている」と聞きます。実際どうなんでしょうか。

桜井
言われるほどは悪化していないのかなと思っています。
そうなんですか?

桜井
『読書スタディーズ』でも紹介しましたが、令和5年度の文化庁調査(*1)では、月に1冊も本を読まない人が6割を超えていました。全国の16歳以上を対象として、ほぼ3人に2人が本を1冊も読まないということになります。それが「読書離れの深刻化」「国語力の養成に影響」として大きなニュースになったんです。
平成30年度の調査(*2)では47.3%なので、「読まない」割合は上がっています。
ということは、やはり本を読まない人が増えている?

桜井
ただ、実は調査の仕方を変えたという経緯があります。平成30年度の調査は対面式で、令和5年度の調査は郵送式なんですよ。
これは推測ですが、たとえば面接で「本を何冊読みますか?」と聞かれたら、堂々と「0冊です」と言わず「1冊くらいかな」と答える人もいるのではないでしょうか。郵送になったことで、『0冊』と回答しやすくなった人が増えた可能性はありますよね。
たしかに、「本を全然読みません」はちょっと言いづらいかも。

桜井
そもそも、「読書量」を測ることは難しいんです。文化庁の調査では「雑誌や漫画はのぞきます」としていますが、読書学会調査では漫画や新聞も「読書」に含むとされています。そして、読書学会の調査では、マンガや新聞などを含めて「読まない」人は人は32.2%です。調査によって対象や方法、読書の範囲が異なるため、数字で単純に比較できません。文字だけでなく映像が付いているものや、オーディオブックが読書に入るのかという議論もあります。
本は読んでなくても仕事上の書類も含めて文字に触れている人はたくさんいますよね。そのあたりもすべて、本につながる接点になる可能性はあると考えています。
日々、文字を読んでいる。それでも読書する意味は?
AIの回答やSNSなど、日常的に文章を読む機会は多いと思います。それでも、あえて本を読むことで得られるものはあるのでしょうか。

桜井
1つは、没頭することですね。SNSの短い文章を読んで「面白かった」と思う。それもいいんですが、特に小説などのフィクションでは、没頭して読むことで結果として読む文字数や読書量が増えていく傾向があります。
どういうことでしょう。

桜井
フィクションを読んでいる人のほうが、教科書的な語彙も増えていくという研究があるんです。
小説には教科書的な語彙も出てきます。その都度辞書を引く人もいるけど、前後の文脈から推測しながら「こういう意味かな」と考えて、そのまま読み進めることも多いですよね。そのなかで、言葉の意味を理解していくのではないでしょうか。
物語の続きが気になって没頭することで、新しい言葉を意識せず習得できそうですね。

桜井
文字を読んで映像を思い浮かべたり没頭したりすることも、能力的な得意・不得意はあるらしいですけどね。
そうなんですね。本を読むのが苦手だったり時間がなかったりする場合、AIに要約してもらうこともできます。内容を知りたいなら、要約を読むだけでもいいのでしょうか。

桜井
AIの要約については研究があって、要約だけを読む場合は、本文を読む場合よりも理解度が下がるという結果が示されることもあります。要約すると、細部の情報やニュアンスが失われるからですね。
ただ、要約を読んだ後に本文も読めば、理解を補えることを示した研究もあります。
AIに要約してもらった後、「それはどこに書いてあるの?」「これはどういう意味?」と質問して原文を読み直すことがあります。そうすると、理解しやすくなることもあって。

桜井
まさに、そういう使い方ですね。対話しながら理解を支援してもらう、補助的な使い方が理解を深めると言われています。「読む」ことを完全に任せてしまうと理解が十分にならない場合があります。
自分で読んでわからないところを聞く。あるいは要約を読んでから本文に進む。任せきりにしないことが大事です。ただ、AI要約が有効な場合もあります。
どんなときですか?

桜井
読解があまり得意でない人には、AI要約が理解を助ける場合があるという研究もあります。「いきなり本文を読むのは無理」という人にとっては、まずはAI要約で内容を理解できるのはありがたいことがあるんですよね。その場合も対話的に「ここはどういう意味なのか」と掘り下げたり、AIの言うことが本当か本文と照らし合わせたりできるAIリテラシーは必要にはなります。
「役に立つ」だけでは測れない、読書の楽しみ
読む力や理解を深める意味だけでなく、桜井さんは読書を「楽しむこと」を重視されているそうですね。

桜井
私個人の考えというより、世界的に「読書の楽しさを推進していこう」という動きがあるんです。イギリスでその傾向が強いですね。特に「自主的な読書」が読解力や学力につながるとされています。
ただし、最初から自分で読みたいと思って選んだ本に限りません。学校や会社で課題としてすすめられた本でも結果として熱中して読めたなら、それも楽しみのための読書になりえます。
楽しめる本に出会うには、きっかけも必要ですよね。本人の好みや意欲だけでなく、本を選べる環境や、読む機会があるかどうかも関わりそうです。

桜井
それがイギリスの読書推進政策のあり方そのものです。読書の推進には読書を楽しむことや個人の好み・選択が重要ですが、そもそもの機会が公平に保たれていません。そこを問題にしているんですよね。経済的な格差など、さまざまなバリアを取り除くことが焦点になっています。
日本でも、政策的に読書は推進されているのでしょうか。

桜井
2001年に、読書を推進する法律(*3)ができました。子ども向けの法律ではありますが、読書活動は読解力を高めるだけのものではなく、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものだとされています。
でも、働いていると時間がなかったり疲れていたりして、本に手が伸びないこともあると聞きますね。

桜井
働かないことが、読書をするには一番有効なんですよね。とはいえ働かないわけにもいきません。本が読めない理由を聞くと、時間がない、スマホを見てしまうといった答えが返ってきます。ただそれだけで説明できるかというと、難しいんです。『読書スタディーズ』にも書きましたが、読書は旅行に比べればずっと短い時間でもできるレジャーのはずなので。
私が考えているのは、「自分にとって面白い本を探せなくなっているのではないか」ということです。みんなが読んでいるからなど自分の興味とは違う基準で選んで面白くなかったら、次の本には手が伸びにくいですよね。自分が楽しめる本を自分で選ぶことは大事だと思います。
「読んでおいたほうがよさそう」より、自分が面白いと思える本を選ぶ。そのためには、本との付き合い方も変わりそうですね。

桜井
私は「心の読書バリアフリー」のようなことも必要ではないかと考えています。「こういう本を読まないと読書とは言えない」という狭い読書観を押し付けられたり嫌な経験があったりしたら、読書嫌いになってしまうこともありますよね。
漫画も含めて読書のあり方を広くとらえることや、どんな本でも自分が読みたければ読んでいいと思えることが大事ですね。呪縛を解いていく取り組みをしていかないと、難しい。
読書を「役に立てなければ」と構えすぎなくてもいいんですね。

桜井
読書の魅力は、読解力や語彙力獲得だけで説明しきれないものです。読書自体によって得られるものは、個々人によってさまざまです。それは数量化されない部分があるのだと思います。
AI時代に本を読む意味と、読書の楽しみについて伺った前編。後編では登場人物への共感や会話をしない読書会などを手がかりに、本を介した人とのつながりについて伺います。
[取材・文]樋口 かおる

