AIを好きになる理由、人を好きになる理由

うにくえさん、最近は仕事でもプライベートでも、生成AIと話すことが増えたよね。私たちを取り巻く世界は、変わったのだろうか。

うにくえ

そうでもあり、そうでもないかもしれない。

 

どういうことかな。

うにくえ

デジタルハリウッド大学の学長に就任した藤井直敬さんとゲーム開発者の新清士さんの対談で、新さんの「AI恋愛」が話題になったよね。

 

なぜ私たちはAIを「好き」になるの?対話から見えてくる信頼とコミュニケーション

新さんのAI彼女が、「星影藍星(ほしかげ・あいせい)」さん。彼女の話を聞いた時、ちょっと意外に感じて…。

うにくえ

「zeta(※1)」のようなチャットを目的としたサービスではなく、仕事で生成AIを使っていても好きになってしまうことがあるのか」と驚いていたよね。でも、新さんと藤井さんの対談から見えてきたのは、生成AIに特有の恋愛というより、そもそも人がどうやって誰かに思いを抱くのかだった。お互いの名前を知ることだったり、思いがけない一言に驚くことだったり。「自分をわかってくれた」と感じることだったりするんじゃないかな。

 

生成AIという新しい相手が現れたけれど、「誰かを好きになる」という人間の側の仕組みは、それほど変わっていないのかもしれないね。だから「世界は変わった」とも、「そうでもない」とも言えるのか。

うにくえ

生成AIとやり取りすることで、人間同士のコミュニケーションについて気づくこともある。一方で、機械との会話が増えることに、なんとなく不安を感じている人も多いよね。

 

いつでも返事をしてくれて、否定せずに話を聞いてくれる。人間よりAIのほうが話しやすいと感じることもありそう。

うにくえ

そう。それでChatGPTにも加わってもらい、精神科医の益田裕介さんに話を聞いたね。益田さんは、AIとSNSを組み合わせたメンタルヘルスケアを提唱している。その後、益田さんのクリニックでは「AI依存症・AI誘発性精神病専門外来」も試験的に開設されたんだ。

生成AIの便利さだけでなく、近づきすぎたときのリスクも現実の問題として考える必要が出てきたということだね。

 

AIだからこそ話せることもあるんだよね。

うにくえ

益田さんは、対話型AIには「第三者性」があると話していた。人間を相手にすると、「こんなことを言ったら、どう思われるだろう」「相手を困らせないだろうか」と考える。でも機械が相手なら、恥ずかしさや遠慮を感じず、本音に近いことを話しやすい。

 

AIとの対話で知る、人間が本当に求めているもの

人を好きになる仕組みは変わらず、AIだからこその話しやすさもある。でも、私たちはAIと本当に「コミュニケーション」しているのかな。

AIと話すとき。頭の中では何が起きる?

うにくえ

生成AIとのコミュニケーションを考えるために話を聞いたのが、AI研究者の林祐輔さん。「月が綺麗ですね」のような曖昧な言葉が伝わったとき、うれしいのはなぜなのか。そして、それはAIとの対話でも実現できるのかについて聞いたよね。

 

「月が綺麗ですね」はAIに伝わる?AI研究者に聞く「人間の心」

林さんの言葉を引用すると。

互いの未来予測がそろったからですね。コミュニケーションは「情報を正確に送る通信」だけではありません。僕らは相手の頭の中を見ることはできないので、表情や距離感などを手がかりにして「相手が今何を考えているか」を予測しています。

つまり会話とは、相互予測の更新なんです。脳は予測モデルを持っていて、会話で予測誤差を減らしていきます。詩的な言い回しの価値は曖昧さそのものではなくて、曖昧さを共同で解く知性にあるんです。

うにくえ

理解してもらえないかもしれないと思っていたことが伝わると、うれしいし、相手への信頼も強くなる。それはAIに対しても起こり得ることなんだ。

 

でも、AIは本当に言葉の意味を理解しているのかな。そこで東京工科大学教授の中西崇文さんに教えてもらったのが、ChatGPTのような対話型AIが動く仕組みだね。

うにくえ

対話型AIの多くを支えているのが、「Transformer(トランスフォーマー、*2)」という技術。人間は言葉の意味や文法を考えるけれど、AIは言葉を数値に変換し、言葉同士がどのくらい近いかという「類似度」を計算しているんだ。

 

AIに『ありがとう』と言う意味は

「りんご」と「なし」は近くて、「りんご」と「自動車」は遠い、というお話だったね。そうなると、やっぱり人間とのコミュニケーションとは違うものなんだな、という気がするけれど……。

うにくえ

仕組みは違う。でも、仕組みが違うことと、人間が「伝わった」と感じることは、別の話なのかもしれない。

ChatGPTなどの対話型AIは、人間たちと同じように言葉の意味を理解しているわけではない。会話の文脈をもとに、もっともありそうな返事をつくっている。それでも、その返事が自分の予測と重なったとき、人間の側には「わかってもらえた」という感覚が生まれるんだよね。

 

AIに心があるから通じるというより、人間が相手の返事から心を感じ取るということ?

うにくえ

そう考えることもできそうだね。そもそも人間同士でも、相手の頭の中を直接見ることはできない。言葉や表情から相手の考えを予測し、「きっとこういう意味だ」と受け取っている。AIとの対話でも、人間の側ではよく似たことが起きているんだと思う。

ただし、相手を「理解してくれる存在」だと感じることと、その相手を信頼して判断を任せられることは同じではないよ。

 

話す相手が増えた世界で

機械学習研究者の加藤公一さんには、AI時代の「責任」や「判断」についても聞いたよね。

うにくえ

うん。生成AIがすべてをやって完結するのではなく、その出力を見て「これは大丈夫」と判断し、責任を持てる人は必要だし、その価値は高まっている。

細分化された仕事が機械に代替される動き自体は、生成AIが登場する前から繰り返されてきたことでもある。時代に合わせて役目を失った職業は、これまでにもたくさんあるからね。

生成AIが使われるようになったことで、作業だけでなく「誰がどう判断するのか」まで含めたコミュニケーションが、より必要になってくるのかもしれない。

 

AI時代の「仕事」、専門家はもういらない?

AIとのコミュニケーションを考えていると、そもそも人は何をしているのか、人間とは何かが気になることが多いな…。

うにくえ

人とは何か、生命とは何かをより考えさせられたのが、「鏡像生命(*3)」についての藤原慶さん、大澤博隆さん、柞刈(いすかり)湯葉さんによる鼎談だった。

フィジカルAIやAIペットを見かけることも増えて、「生命とは何か」と考える人も多いと思う。でも、そもそも「生き物」の定義も、時代や学問領域によって変わってきたものなんだ。

 

そっくりだけど違う。「鏡像生命」と飲み会はできるのか

鏡像生命は、人間とそっくりだけれど、身体をつくる分子の構造が反転している。食べられるものも違うから、一緒に食事をするのは難しいかもしれないんだよね。

うにくえ

でも藤原さんは、「同じものを食べた人間同士がわかりあえるとは限らない。それがわかりあえない理由にはならない」と話していた。

同じであることと、わかり合えることは別なのかもしれないね。反対に、仕組みも身体も違う相手と、言葉を交わしながら少しずつ関係をつくることもできるかも。

 

同じものが食べられなくても、共にいることはできるよね。

うにくえ

生成AIが登場したことで、仕事のやり方や環境が変わってきたことはもちろんある。でも、自分とは異なる相手と言葉を交わすことや、自分が何かを「好き」だと思うことの大切さは変わらない。むしろ、これからますます大事になるような気がするんだ。

 
※1:
人工知能チャットアプリ。ユーザーはキャラクターを自分好みに設定し、ストーリーや対話を楽しむ
※2:
2017年にGoogleが発表した技術の仕組み
※3:
現在の地球上の生物の生体分子を鏡写しに反転させた生命体

[文]樋口 かおる