「仕事がなくなる」は昔から繰り返されてきた

「AIが仕事を奪う」という不安が広がっていますが、「じゃあ人間は働かなくていいの?」みたいな楽観的な見方もできます。どう思いますか?

はむかず

残念ながら、「仕事しなくてよくなる世界」は来ないんじゃないかなと思っています。

実は1970〜80年代くらい、コンピュータが普及し始めた頃にもほとんど同じ議論があったんですよ。「コンピュータが全部やるから、週3日働けばよくなる」みたいな。机の上にパソコンが常にあって、それで仕事するっていう状況は全く想像できなかったんです。

 

今、コンピューターは仕事や他のことをするための「道具」だとみんな知っていますが、そうではなかったんですね。

はむかず

コンピューターを使うのなら専門の部屋に行って、変な怪しい紙に穴を開けてみたいな。そういう時代だったわけですね。

 

怪しい紙(笑)。情報を記録するパンチカード(*2)ですね。

パンチカード(pixtaより)

はむかず

そうです。その当時は今みたいな状況が想像できなかったんですよね。「こんなに技術が進化したら仕事なんてなくなるんじゃないか」って。実際そんな未来は来なかったわけですが、70〜80年代に言われていた「仕事がなくなる」という予想は、ある意味当たってもいます。パンチカードが使われなくなったら、パンチカードに入力する「キーパンチャー」という仕事もなくなりました。駅の改札で切符切る仕事も、ほぼなくなりましたよね。

そういう感じである種の職業は失われるんですけど、人間がやるべき仕事がなくなるわけではなくて。仕事を失った人はまた次の仕事を探すんじゃないかなというふうに、僕は楽観的に見ています。AIに関しても同じことが起こるんじゃないかなという気がしています。

ただまた違うテーマとして、テクノロジーが貧富の差を広げるというのはありますね。パソコンが使える人と使えない人で収入が違うことはあるので、実際パソコンは貧富の差を広げてきていると思います。AIでも似たようなことがありそうです。

 

AIで消えるのは、“細分化された仕事”

AIを「使える」人と「使えない」人で差が出るということですよね。AIを「使える」とはどんなことでしょう。

はむかず

単純にAIに触ったことがある、という話ではないと思っています。たとえばソフトウェア開発でも、AIにコードを書かせること自体は比較的誰でもできるようになってきています。でもAIが出してきたコードが正しいか判断するのは、誰でもできるわけじゃない。

 

たしかに、「読めないけど動いてるからOK」みたいなこともありそうです。

はむかず

ありますね。本来は全部読んで、「これは大丈夫」と判断しないといけない。でも実際には、そこを飛ばして使ってしまうケースも増えていると思います。

 

AIは間違えることもありますよね?

はむかず

間違えます。かなり間違えます。でも最近は、AIが出してきたものを十分に確認せず、そのまま使ってしまうケースも増えています。だから今後は「AIを使える人」というより、「AIの出力をちゃんと理解して責任を持てる人」の価値が高くなるんじゃないかと思っています。

 

AIが何でもやってくれる“魔法”なら人間は呪文を唱えるだけでいいけれど、現状はそうじゃないと。生成されたものを理解して判断できる、専門的な知識や能力を持った人が必要ですよね。

はむかず

そうですね。何もわかっていない人が管理するとトラブルになる、というのは昔からあることなんです。ちゃんとコードを読めて自分でレビューできるような人は今も必要。今まで自分で全部書いていたコードをAIに生成させながら、全体を管理する側に回っています。そういう人は生き残っているし、むしろ昇格している印象もあります。

 

以前うにくえのインタビューで、数十人で行っていたゲーム制作をAI活用により4人くらいで回せるようになったと聞きました。AIがあることで、仕事が増える人と減る人に分かれている気がします。

はむかず

やっぱり、全体を見れる人は強いんですよね。ゲーム制作だったら「こういうゲームを作りたい」みたいな自分の思いを持っている人たちが強いんだと思います。子会社、孫会社として「ここのライブラリーだけ作る」みたいな、全体構造に関われない仕事は弱い立場にあります。でもそれは、今に始まったことじゃないんですよ。

特に日本のSI(システムインテグレーション*3)の世界って、かなり階層構造なんです。最初にお客さんと話をして戦略を立てる人がいて、そのあと設計する人がいて、その下にプログラムを書く人がいて、みたいな。その中で「コードを書く」という部分だけを切り出した仕事は、昔からそんなに立場が強くなかったんですよ。

たとえば大手の企業が数億円という規模で、「こういうシステムを作りましょう」と提案します。AI以前はまず設計書と仕様書を書いて、そこから先は子会社とかに投げます。その子会社もまた別の会社に部分ごとの開発を依頼する。そういう構造で、今までシステム開発は行われてきたわけです。でも親会社は子会社が納品したものを受け入れて、それが本当に大丈夫かどうか必ず検品していたはず。その相手がAIになっただけの話なんですよね。

 

AI時代、人間は何をするのか

なるほど。でも、AIを利用するにもコストはかかっています。

はむかず

企業が巨額の金額を出して外注でシステムを作ってもらったら、結局使えるものができなかったみたいなことがありますよね。ざっくり言うと、「大きな金額を出す前の“試行錯誤”の一部が、Anthropicを使えば数万円レベルでできてしまう。だったらやってみよう」という感じ。そういった仕事は以前は人がやっていたもので、その部分では仕事は失われていると聞きます。

 

でも、すごく高度な技術を持ったプログラマーもいますよね。

はむかず

いますね。たとえばコンパイラ(*4)を作る人とか、Pythonそのものを作る人とか。そういう人たちは、「機械の気持ちがわかる人」なんですよね。 CPUとメモリがどうやり取りしているか、コンピュータ内部で何が起きているかを深く理解しています。そういう人たちはAIに代替されないというより、むしろAIを成立させる側の人たちです。

一方で、お客さんの話を聞いて「こういうシステムが必要ですね」と整理できる「人間に近い人」の仕事も、付加価値が高いです。それもAI時代に突然そうなったわけじゃなく、もともとそういう構造。今はそれがより顕著になったという感じですね。

 

AIによって専門性や人間が不要になるのではなく、人間に求められる役割が変わっていくのかなと思いました。

はむかず

そうだと思います。特に重要になるのは、
・何を作るべきか決める
・全体を設計する
・AIの出力を検証する
・責任を持つ
みたいな部分ですね。 AIは便利ですが、「それをどう使うのか」「本当に大丈夫か?」は、まだ人間が決めないといけないことなので。

 
はむかずさんの書籍。『機械学習のエッセンス』(SBクリエイティブ)、『Pythonで理解する線形代数の基礎』(技術評論社)。

「AIで仕事がなくなるのでは?」という不安が広がる一方で、実際には人間に求められる役割も変わり続けています。前編では、AI時代の「仕事の構造」について伺いました。後編では、便利で効率化されているはずなのに、なぜか仕事が終わらない理由についてお話を伺います。お楽しみに。

※1:
Labor market impacts of AI: A new measure and early evidence https://www.anthropic.com/research/labor-market-impacts
※2:
厚手の紙に穴を開けることで情報を記録する記録媒体。19世紀末のアメリカで、国勢調査のためパンチカードを用いたデータ処理が行われた
※3:
ITシステムのコンサルティングから開発、ハード・ソフトの選定、導入、保守・運用までを包括的に請け負う事業
※4:
人間が理解しやすいプログラミング言語で書かれたソースコードを、コンピュータが直接理解できる機械語へ翻訳するプログラム

[取材・文]樋口 かおる