【後編】西田 宗千佳
オンライン上に人を集める「速さ」と「対立」。その先にあるものは
コミュニケーション・テクノロジーの未来
2026.04.30
人が集まって情報を交換し、ときには議論する。そうしたコミュニケーションは、昔から様々な場所で行われてきました。それを一気に拡張したのが、インターネットです。今では離れた場所にいるたくさんの人がほぼ同時に、同じ話題について語り合うことも当たり前になりました。
そこで起きたのは、単に「速くなった」「人数が増えた」という規模の変化でしょうか。
テクノロジーやデバイスの進化はコミュニケーションの手段を変えるだけでなく、そこに集まる人々のふるまいや関係性そのものにも影響を与えています。
前編に続き、ITジャーナリストの西田宗千佳さんにお話を伺いました。コミュニケーションの変化と、その先にあるものは?
( POINT! )
- テクノロジーは、ある規模で一気に普及して定着する
- VRの普及には、軽量・低価格なHMDの実現が鍵
- デバイスによってコミュニケーションの「質」が変化
- オンラインコミュニケーションの原型はパソコン通信
- インターネットはコミュニケーションの速度と人数を拡大
- SNSの対立は収益構造と結びついている
- 遅延評価によりスピードのコントロールが進む可能性

西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に寄稿するほか、執筆・テレビ番組の監修なども手がける。著書に『ポケモンGOは終わらない』(朝日新聞出版)、『ソニー復興の劇薬』(KADOKAWA)、『ネットフリックスの時代』(講談社現代新書)、『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(エンターブレイン)、『生成AIの核心: 「新しい知」といかに向き合うか』(NHK出版新書)ほか。共著に『ディープフェイク: 生成AIとの共棲に向けて』(丸善出版)。
コミュニケーションは数の変化から質の変化へ
オンライン会議はコロナ禍で一気に広まりました。VRもより一般的になるでしょうか。

西田
コロナ禍では強制的に対面コミュニケーションが阻害されたので、多くの人が使わざるをえなかった。使ってみたら便利なので、当たり前になったという部分はあると思います。
新しいテクノロジーは、どこかで一気に人が増えないと広がらないんですよね。VRに関して言うと数千万人規模で、アメリカでは10代を中心に利用が広がっています。これがもっと大きな規模になるには、HMDがもっと軽くて安価になる必要があります。それが2028年から2030年頃に実現するとして、その後普及していくのではないかと考えています。
そうなると、今使っているZoomも違う形に。

西田
ビデオカメラの映像ではなく、3Dで目の前に「いる」ふうになるかもしれないですね。仕事もHMDをかけたままで、ライブコマースも商品が立体的に見えるとか。そうなると人間じゃなくてもよくなるという可能性もありますが。
ただ、ライブコマースのためにHMDが広まることはないと思います。ライブコマースを目的に機械を買う人はほぼいないので、スマホのように日常的に使われているものがベスト。でもYouTuberやVTuberのライブであれば、それを視聴するためにHMDを手に入れる人が増えます。そこにライブコマースが入ってくることは十分考えられますね。
そして使ってみたら、ライブ視聴だけではなく会話にも便利です。スマホをずっと手に持つ必要もないし、自分の姿もいい感じで映し出せる。HMDをかけていても望ましい状態で相手に自分の姿を表示しながら、一緒に歩くこともできるんですね。現在50万円以上する「Apple Vision Pro」でできることが、3万円とか5万円の機械でできるようになる。そうなるとパソコンの画面もHMD上に浮かんでいればいいので、ディスプレイも不要になります。数の変化から、今度は質の変化が起きるわけです。
コミュニケーションを変えてきたテクノロジー
テクノロジーの進化でコミュニケーションが変わることによって、私たちのあり方も影響を受けていますよね。

西田
間違いなく受けています。デジタルなコミュニケーションの歴史という意味では、パソコン通信までさかのぼる必要があります。パソコン通信は、今のインターネットのように世界中のどこからでも誰でも参加できるというものではありませんでした。でも、多くの人が同じ話題について同時に話すというインターネットの基本的な要素はパソコン通信の時代からすでにあったんです。
そうなんですね。

西田
1960年代頃には、大学のコンピュータの間でチャットをしながらゲームするようなものはもうありました。1980年代には、ハビタットというサービスも生まれました。これは自分の顔と身体を作って喋るという今のVRチャットみたいなものです。
同じ場所にいない人間が1つの話題について、ほぼリアルタイムから数日程度の間隔までの間に一斉に話し合うようになったのは、パソコン通信が初めてだと思います。それ以前、雑誌の投稿欄では数カ月かかっていましたし、バーやカフェでの議論も参加できる人数は限られていました。それが、たとえば食べているラーメンの話題についてすぐに多くの人と盛り上がれるようになった。実はコミュニケーションの場として一番大きな変化が生まれたのは、パソコン通信なんです。
パソコン通信で多くの人がオンラインに集まれるようになったけれど、その時はまだ「誰でも」ではないですよね?

西田
そうです。パソコン通信と現在のインターネットの大きな違いは、速度と参加人数。限られた人が使っていたものから、数千万人が使うサービスに変わりました。そこで話題の内容、コミュニケーションの密度、参加する人の属性の幅も変化しています。
趣味も育ちも見ている世界も違う人たちが、現在はXのような場で一緒に集まっています。見方が違うので、当然ぶつかりやすくもなります。特にスマホ以降ありとあらゆる人がインターネットに接続するようになり、スピードと数でどんどん形が変化していったと理解するのがわかりやすいかなと思います。
炎上や対立を生み出している気がします。

西田
今は撤回したそうですが、イーロン・マスクはX(旧Twitter)を「PvP(プレイヤー対プレイヤー)」と表現したこともあります。人と人が対話するというより、競い合う構造になっているとも言えます。でも私たちはコミュニケーションする上で対立だけを求めてるわけじゃなく、「モフモフかわいい」とか「肉うまそう」みたいなことを求めてることも多々ある。その一方で、対立を煽るほうがインプレッションが集まりやすい。結果として収益につながりやすい構造があるんですね。
SNSは「速さ」を捨てられるか
デジタルデトックスをする人もいますが、自分の意思で行うのは大変です。

西田
元々人間というものは、冷静に長期間物事を考え続けるのが難しいんだと思います。特にSNSは表示されたものを一瞬で読んで、反射的にいいねを押したりリポストしたり反論したりするようにできています。そうすると、人間はどんどん文章を読まなくなるんですね。読んだとしても誤読しやすくなる。
少なくともSNSにおいては、人間同士のコミュニケーションがこれまで以上に感情的で素早くなっています。スピードが上がっているんですね。たとえば新聞の投稿欄では、ある程度選ばれた意見が掲載されています。それがSNSでは、ほぼすべての反応が可視化されるようになっています。私たちはそういうもの1個1個に反応するようになって、どんどん感情的になっているんですね。
あまりにもスピードが速くなりすぎたので誰も訂正もできないし、建設的な意見も言えなくなっています。だから「スピードを落とそう」という話はずっと出ていますね。ただ、速いほうがメリットがあるという人もいます。ビジネス的にも、スピードが早いコミュニケーションが優先されている。様々な人がいてバランスを取っている中でも、マイナスの部分が我々の社会を大きく変えてしまっているのではないかと思います。
これから、コミュニケーションはどうなっていくのでしょうか。

西田
個人同士のコミュニケーションを濃密にする方法はいくらでもあって、今後はよりその人に合った方向へと進化していくと思います。一方で、SNSのようなコミュニケーションについては、これからもう少しスピードが落ちていくのではないかと考えています。ある種の理想論かもしれませんが。
遅くなるということですか?

西田
はい。というのも、現在のXでは「おすすめ」表示がメインになっていますよね。おすすめに表示されるものは時系列ではないため、1日前や数年前の情報も流れてくるようになっています。これは本来ユーザーに多くの投稿を見せるための仕組みですが、結果として「今書いたことをすぐに見てほしい」という即時性の文化から「よいことを書けば数日後でも支持される」という「遅延評価」の方向へ、全体が変わっていくような気がしています。
すぐに目を通すべき「ニュース」のような情報とそうではない一般的な投稿とが明確に分かれ、結果的にコミュニケーションの速度は落ちる方向に向かうのではないでしょうか。
これはかなり楽観的な見方ですが、このようになれば人間は生活のバランスを取りやすくなるはずです。SNS上で喧嘩は続き、脊髄反射的な反応がいつまでも続くのかもしれませんが。それでも私は、次にやってくるのは「情報のスピードがコントロールされる時代」だろうと考えています。

