【後編】堀元 見
「ノリの共有」があるとコミュニティができる。実現するには?
YouTubeからリアルな「ゆる学徒カフェ」も
2024.03.14
『ゆる言語学ラジオ』はとっつきにくいような専門知識もゆるく楽しく紹介してくれる大人気YouTube番組。『ゆるコンピュータ科学ラジオ』など派生番組やリアルなカフェ「ゆる学徒カフェ」も誕生、収録やイベントスペースも提供しています。
人が集まるコミュニティを作ろうとしてもうまくいかないことも多いなか、新しいコンテンツやサービスが受け入れられ、良い循環を生むためには何が必要なのでしょう。ただ広めるだけでなく、世界観が共有できる相手に届けるには?
コンテンツ制作について伺った前編に続き、『ゆる言語学ラジオ』のパーソナリティであり作家の堀元 見さんにお話を伺います。カフェができて変わったこと、やりたいことが実現できる理由はなんでしょうか。
( POINT! )
- いいと思うものを作り、何かとくっつける
- いいものを作る技術には再現性がない
- ノリの共有があると施策が打てる
- ノリが先で、集団ができるのは後
- 指針があることでいい循環が生まれる
- コミュ力は後天的に習得した
- コンテンツを作ってから場を作るとミスマッチが少ない
堀元 見
YouTuber・Podcaster・作家。1992年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、就職せず「インターネットでふざける」を職業に。プロデュースするYouTube番組『ゆる言語学ラジオ』はチャンネル登録者24.4万人(2024年2月現在)、水野太貴と共にメインパーソナリティを務める。著書に『教養(インテリ)悪口本』(光文社)、『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』(徳間書店)、水野太貴との共著に『言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(バリューブックス・パブリッシング)。note「堀元見の、炎上するから有料で書く話」。2023年6月、池袋に「ゆる学徒カフェ」オープン。
おもしろいコンテンツにおまけをつける方法
いいものを作りたい気持ちを持つ人は多いですが、問題はコスパです。前編で「おまけをくっつけることが露骨にうまくなった」と聞きましたが?
堀元
『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』の元になったのは、「書きたいけど1銭にもならないな」と思っていた記事なんですね。そこに「記事を書いてくれませんか」という依頼があったので、やりたかった記事を放り込んだという。
ベースに何も言われなくてもやっていたであろうおもしろいと思うコンテンツがあって、おまけで広告を差し込んでお金にする形にできたので理想だなと思って。それからコンテンツは純度100で自分がいいと思うものを作り、それを何かとくっつけることで最大の利益にできないか模索するというスタンスでずっとやってます。
「おもしろいものを作りたい」ことが優先だけれども、それでお金も生み出したいと。
堀元
そうですね。昔はそれが下手だったからあまりやりたくないことでお金をもらったり、やりたいことをやったけどお金をもらえなかったりを繰り返していたんですけど、20代後半ぐらいからそれがうまくなった結果、いくらでもできるなこれと思って。
ビジネス書みたいですけど、「うまくなる」コツを聞きたいです。
堀元
いろんな人にお話ししてきましたけど、結論としてほとんどの人に向いてないからやらない方がいいですね。
いいコンテンツに何かをくっつけてお金にする能力にはコツがあるんですけど、元となるいいものを作る部分に関しては再現性がないんですよ。
コンテンツありきということですよね。仮にあったとして、どうやってお金につなげますか?
堀元
パターンはいくつもありますが、『ゆる言語学ラジオ』でいうと僕らが長尺で喋るコンテンツにお客さんがついていて、そのノリが浸透してるわけです。そのノリが好きな人に、サポーターコミュニティに入ってくれたら気が合う人がいますよとかイベントいっぱいやってますよとかお知らせすると、みんなスムーズに入ってくれるんですよね。ノリみたいなものが共有できていると強い施策が打てるけれども、Xのポスト1個がバズって「こういうコミュニティを始めるんでみなさん入ってください」と言っても多分誰も入らないという感じです。
ノリの共有ができると集団ができる
ノリが共有できている集団があるなら、そこにコミュニティが形成されているのだと思います。それはどうやってできていったんでしょうか。
堀元
それもコンテンツありきですね。コミュニティから作ろうとする人がたまにいるんですけど、逆だと思います。ノリがあるのが先で、集団ができるのはその後。コンテンツで明確に指針を示しているからコミュニティが成立しうるというか。
あまり使いたくないたとえですが、聖書ありきだと思うんです。聖書ありき教えありきでキリスト教は広がった。キリスト教が広がったのってイエスの死後じゃないですか。
たしかに、先に箱を作って「集まろう」と呼びかけても難しいですね。2023年6月池袋にオープンした「ゆる学徒カフェ」はどうですか?YouTube上に形成されていた集団にリアルに集まれる場ができて、何か変化は。
堀元
元々サポーターコミュニティがあってみんなでご飯に行ったりとかしていたので、その場所がゆる学徒カフェになるといいなという目論見がありました。実際それは達成されています。
それとは別に、場所を作ってよかったなと最近思っているのが、客前に立つ機会が圧倒的に増えたことです。お客様の前で喋ると反応がリアルタイムで見えるので、僕も他のパーソナリティの人たちも腕が上がるなと思って。
アウトプットのスキルが上がる?
堀元
そうです。こう言っておくとウケるなとか。場の空気を見ながらこうしようみたいな。カメラに向かって喋るより楽しいですしね。
「コミュ力がないと生涯で10億円ぐらい損するんじゃないか」
ゆる学徒カフェの経営状況はどうなんでしょうか。
堀元
イベントをがんばった月に黒字になって、サボると赤字になるって感じです。「がんばれば結果が出る」という発見がありました。めちゃくちゃ凡庸なこと言ってますけど(笑)。
初年度に黒字になるのはすごいです。いろいろお話を伺っていて思ったんですが、堀元さんって仕事できますよね?
堀元
できますね。絶対自分で言うことじゃない(笑)。要領がいいですね。よくこんなに大量のタスク処理できるなって自画自賛してます。
それにもコツはありますか
堀元
タスク管理ノウハウはありますけど、Notionを使うみたいな普通のことです。そんな小手先のことより、根本的に脳のワーキングメモリが大きいことが関係していると思ってます。同時に考えられることも多いし、精度もわりと高いと思いますね。コンピュータも大きいメモリを詰んでると作業効率が全然違いますし。
ワーキングメモリの大きさは真似できないかもしれません。コミュ力はどうでしょう。YouTubeでもカフェでもたくさんの人と関わっていますが、「人と喋るのが嫌い」とも聞いたのですが。
堀元
嫌いですね。コミュ力の定義があいまいですが、今言われたコミュ力についてはおそらく得意な気がします。必要な人と仲良くなる社会性の仮面をかぶるのがうまいので。昔はそういうことが嫌いでしたけど、20才の頃「コミュ力がないと生涯で10億円ぐらい損するんじゃないか」と思って、がんばって習得しました。
場を作るなら、コンテンツを作るのがおすすめ
後天的にコミュ力を身に付けたということですが、『ゆる言語学ラジオ』から別のチャンネルが派生してカフェもできて、視聴者、配信者含めたくさんの人が関わる世界みたいなものが広がっていますよね。それは意識してそうしているんでしょうか。
堀元
昔文筆だけで食べていけるようになったとき、西東京の外れのあきる野市に引きこもって1人で暮らしてみたんですよ。誰とも関わらないほうが純度100%のコンテンツを作れるしクライアントを説得する無意味な時間もないし完璧だと思ったんですけど、2年ぐらいで完全に飽きまして。
それで水野(太貴さん)と一緒に『ゆる言語学ラジオ』をはじめたら楽しかったんで拡大して、今タスクが多すぎてわけがわからなくなってます。だから「何の因果でこんなことやってるんだ、西東京の外れで暮らしていたときが本当の人生だったのかもしれない」と考えることもありますが、ないものねだりだなと思ってます。
これが自分の人生だろうなって思いながら満足して今後もやっていくみたいな感じなので、特に「こんな世界を作りたい」みたいな思想はないし、組織を大きくしたいとかもないです。
堀元さんにとっても周りの人にとってもいい場が生まれている気がします。
堀元
そうですね。場を作るなら、先にコンテンツを作るのがおすすめです。ノリが浸透しているので出会いのミスマッチも少ない。それもコンテンツ作りの良さの1つかなと思います。
[取材・文]樋口 かおる [撮影]野間元 拓樹