人間には1日24時間しかない。ポールダンスを始めて気づいたこと

「雑だね」と言われたらちょっと気にしてしまう人が多いと思います。そうではないマインドは元からですか?

ギャル電

以前は、つまらないことでぐるぐる悩むようなタイプだったんです。でも、気持ちはフィジカルな部分に左右されるなとわかって、今は悩むよりスポーツとか動物っぽさみたいなことを大事にしています。それはポールダンスを始めて変わったことですね。ポールダンスをやる前は運動も嫌いで。

 

ポールダンスってかなりアクロバティックですよね。運動嫌いなのになぜ始めたのでしょう?

ギャル電

B級映画が好きだったんですけど、『ゾンビ・ストリッパーズ』というゾンビ映画にイケてるポールダンサーが出てくるんです。「あんなビッチになってモテてみたい」と思っていたら海岸での音楽イベントに超かっこいいポールダンサーさんがいて。おそるおそる話しかけたら気さくに「教室に通えばできるようになるよ」と教えてくれたので、よしやるかと。

 

急ですね。

ギャル電

行動力のある陰キャっているじゃないですか。「やる OR DIE」みたいな。

 

います。それでモテるようにはなったんですか?

ギャル電

いや全然。というより、そこで曲がった性根が叩き直されたんですよ。

自分はおしゃれの基本を中高で学んでこなかったから、眉毛を整えるみたいなことも知らなかったんですよ。大人になると勝手に整うと思っていて。そうじゃなくて、華やかに見える人がみんな生まれつき華やかなわけじゃない。キラキラしてみんなから好かれる女の子はちゃんと努力しているという、当たり前のことがインストールされたっていう。

そこはやらないならやらないでいいことだけど、私は1回やってみたいと思っていたし、その価値はありました。人間には等しく1日24時間しかない。そのなかで「やるかやらないかしかない」というシンプルなこともわかって、そこで1回反省して。

 

運動することにはよく眠れる効果もありますよね。

ギャル電

頭を使って眠くなるのとは別の「こんなに限界に眠いことある?」という経験もできましたね。すべてではないけど体を動かすと細かいことがどうでもよくなるし、体力があると悩みもそこまで重くならない気がします。

 

ストリートで犬が広める「光るっていいね」

ダンサー時代にギャルに?

ギャル電

2014年頃のことなんで、1990〜2000年代はじめに全盛だったギャルブームはだいぶ下火になっていて、ノームコアみたいなシンプルなスタイルが流行ってる時代でした。ポールダンスの子たちはダンサー系で、令和の判定基準でいえばギャルになるっちゃなるけど、自分のことをギャルと思っている人は少なくて。服装のスタイル的にはB系ギャルが少し近いかな。

 

その頃、電子工作で光るアイテムも作り始めたんですよね。

ギャル電

私はリズム感がなくてダンスも上手くなかったけど、ショーや衣装を作るのもクラブイベントに行くのも好きだったんです。だからそこに電飾を加えるとすごく映えるなという考えがあったけど、売っている電飾衣装は壊れやすいしあまりいいものがなかった。そこで服に付ける光るアクセを作り始めて、はんだ付けの練習で作ったものもバッジにするだけでかわいいとか、はんだ付けの工程自体「チルい」ことにも気づいて。

 

「雑に作る」ことにつながりますね。光るものに惹かれるのはなぜかが気になります。映える以外にも理由はありますか?

ギャル電

中高生の頃にクラブや山でのレイブイベントで遊んでいたので、「ブラックライトでバキバキに光ると上がる!」みたいなものが原体験としてあります。蛍光色やタイダイ、光る腕輪でデコっていたレイブカルチャーの影響はあると思います。

 

2023年に藤原麻里菜さんと「L25 令和 ヤンキーテック伝説 〜無駄づくりとギャル電〜」の展示を開催しましたよね。ヤンキー文化もよく光っている気がします。

ギャル電

光るシフトレバーとか。夜遊ぶ人は光るものが好きですね。クラブとかヤンキーには不良のイメージがあるけど、最近はその辺とは関係ない世田谷で散歩中の犬もけっこう光ってます。

 

犬が光る?

ギャル電

Xとかで「光る犬」で検索すると、徐々にきてることがわかるんですよ。光る首輪が製品として増えたことで光る犬も増えて、犬連れのおばあちゃん同士が「首光ってていいわね〜」と褒め合っているんです。「光る犬」はたまにチェックしてます。

 
「本に『不良は寂しがりだからふわふわのものが好き』と書いてあったので尻尾をつけてます」とギャル電さん。

「かわいくない?」と攻める姿勢はhackに近い

光る犬ムーブメントが。

ギャル電

メディアで取り上げられていたからではなく、ストリートでリアルに見て「犬、光ってていいね」という感覚が広まっているのがいいなと思っています。

ギャルカルチャーもブームの時は馴染めなかったけど、1回外れてみると面白い。当時のメイクを今急に思いついて街に出ることってありえないじゃないですか。でも、当時はそれまでの歴史があったうえで「人とかぶりたくない」「あの子よりもっと盛りたい」と街でやり合った結果、徐々にエスカレートしていった。今はそういうカルチャーがあまりない。

 

そうですね。自ら「量産型女子」を名乗る人もいるし、同じような服を着ている人も多い。

ギャル電

正解が決まっているいるものが正義になりすぎてる。ギャルの「盛る」カルチャーも突発的にやると誰にも理解されないんだけど、文脈のなかで街や外に自分の頭のなかのものを見せていくと、それを見た誰かが「ありだね」「新しいね」と言ってくれる。「パジャマを外で着てもかわいくない?」みたいに攻めていく感じはhackに近いと思います。

 

なるほど。コロナ禍もあって、そういう冒険はさらにしにくくなっているかもしれませんね。

ギャル電

ちょっとここをつなげてみてもらえますか?

 

単純な電子工作でも、自分で光らすとかわいい

あ、光った!

ギャル電

これは普通の2本足のLEDと同じ仕組みの部品で、プラスとマイナスの回路をつなげて使う単純な仕組みだから、電源を入れると超簡単に光光ります。それでも自分で電線をつなげて光らせるとかわいくないですか?

 

かわいいです。YouTubeで見てもかわいいだろうけど、もっとかわいいし「すごい!」と感じます。

ギャル電

これが「自分で光らせたLEDはかわいい」ということ。これはアリエク(AliExpress)と呼ばれている中国の通販サイトで1文字ずつ買えます。こんなパーツが1個2〜300円で売られているんです。ボタン電池1個で光るから、自分のイニシャルがAだったらAのパーツを使った電飾にして、電池を一緒に土台につければもうアクセのできあがりっていう。

中国ではこういうものがたくさん売れるから、技術の革新も進んで新しい商品がどんどん出るのかなって思ってて。これはLEDフィラメントというパーツで、中に小さいつぶつぶが入っているのが見えるんですが、このつぶつぶが超小さいLEDチップになってて光る。元々はエジソン球っていう、昔ながらの白熱電球みたいにフィラメントが光る照明で売られていたものが電池で簡単に動くようになったので、便利で気に入ってます。

 

コンセントがなくても光らせられるんですね。

ギャル電

そうです。ギャルなんで、持ち歩きたい。ストリートで光らせたいんですよね。

 

[取材・文]樋口 かおる [撮影]西田 香織