三者三様の「雑」がある。雑なことを悪いと思ってなかった

「雑」は否定的に使われることが多い言葉です。ギャル電さんはどう捉えていますか?

ギャル電

『雑に作る』という本を書くときに、共著者の3人(石川大樹さん、ギャル電さん、藤原麻里菜さん)で「雑」について話し合ったんです。そうしたら三者三様の「雑」があることがわかりました。似通ってはいるけれど、扱いも理解も少しずつ違う。

 

どんな違いでしょう。

ギャル電

「雑」に対して石川さんと私は普通のテンション、藤原さんはもう少し真面目だなってわたしは思っていて「雑でも大丈夫!」くらいな気がします。

雑なことに対する罪悪感は多分私が一番少なくて、罪悪感ゼロみたいな。雑だなっていう自覚があるので、もし人に「雑じゃん」って笑われたとしても「でしょ?ウケるね」くらいの気持ち。

 

うっかり雑になってしまって「まあいいか」ではなく。そもそも、雑であるかどうかを気にしていない?

ギャル電

「本当は丁寧に作りたい」という気持ちはあまりないですね。それが普通だと思っていたので、本を書くときに一般的ではないと知って「え?駄目なの?」と驚きました。「ヘボコン(技術力も低い人限定ロボコン)」を主催している石川さんも、以前に褒め言葉のつもりで「雑」を使ったらあんまり喜ばれなかったので、自分以外のことに「雑だ」と言う場合は注意しようみたいな話も出ました。

ただ、私自身は雑に作ったほうがメリットがあるタイプだと思っています。

 

雑に作って失敗すると理解度が上がる

雑に作ることのデメリットは「既製品のように仕上がりをきれいにできない」「失敗する」などですよね。メリットはなんでしょうか。

ギャル電

電子工作をはじめた最初の頃はわからないことが多すぎて、何がわからないかもわからない。「基礎を理解して…」とやっていたら人生が終わってしまうし、何も作れません。電子基板の機能は使わないで素材としてアクセを作る方もいますが、私はそうではなくて。「基板の機能をバリバリ使ってクラブで光らせたい!」と思っているので、そのために必要な知識をその都度仕入れていった感じです。

それに、失敗はそれほど問題ではなくて。

 

回路を学ぶことや道具自体ではなく「作って使う」ことが目的だったから、「雑にどんどん作る」ことができたんですね。失敗が問題ではないというのは?

ギャル電

電子工作は元から失敗しやすいし、1回失敗してから説明書を読み直すと頭に入ってきやすくなる。それで1個でもわかったことが増えたらもはやメリットですよね。

 

あ、それは経験があります。勉強でもものづくりでも「ここで失敗したのか」がわかると、理解度が格段に上がります。ギャル電さんが電子工作をはじめた頃、自分に合った情報は見つけやすかったんでしょうか。

ギャル電

ちょうどMakerムーブメントが始まって電子工作にアート系の人たちが参入しだした時期で、理系ではない自分でもできそうだなという雰囲気はありました。でも、「LEDをただ光らせるだけ」の本はなかった。それで電子工作をやってる人を紹介してもらって会いに行ったら、アンプを自作している男性で。作りたいものも違うし、「言ってることが1ミリもわかんねー!」となったこともあります。

そのうちArduino(アルドゥイーノ)という手軽なシステムがあることに気づいて、そういうものを使ったり100均の光るおもちゃを分解したりしながら、安くいい感じに光らせる方法を探していきました。

 
雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(石川大樹・ギャル電・藤原麻里菜著/オライリー・ジャパン)より引用、「雑の極意」。

どうする?「怒られ問題」

「気軽にやってみる」「失敗しながら学ぶ」ことの意義はわかりますが、電子工作は少しハードルが高いです。女性も少ないジャンルですよね。

ギャル電

男女でカテゴライズしたことはあまり言いたくないけど、元々女性が少ない趣味にはやっぱりあれこれ言いたい男性が出てくる。「そんなつなげ方はダメ」とか。

 

なんとなく危なそう、難しそうというイメージが元々あるので、そう言われたら萎縮してしまいます。

ギャル電

もちろん、はんだごてを持ったまま別の作業をしないとか気をつけるポイントはあって、それは「雑に作る」場合でも同じ。でも、過剰に恐れたり批判されたりする必要はないと思います。具体的な指摘ではなくイメージだけで「とにかくダメ」と怒る人は声が大きいから目立つけど、実はそうじゃない人のほうが多い。

ギャル電を始めた頃は今よりも電子工作をする女性が少なくてギャルもやっていなかったから、「なめられてたまっかよ」とジャケットの背中に「感電上等」と入れて、グッズも作りました。とはいえ使うのは電池で5ボルトとかなんで、びっくりするような感電はしないんですけどね。実際に感電とか燃えたとかあったらテン下げ↓じゃないですか。安全は大事です。

 

「怒られたくない」「何か言われたくない」という気持ちが強くなると、「雑に作る」ことは避けたくなるかもしれません。

ギャル電

新しくやってきた人が「なんか気に入らねえ」と怒られるのは、多分古代の壁画の時代辺りからあることなんですよ。でも、ジャンルの裾野は広げたほうが絶対いい。電子工作だったら、情報も増えるし部品も手に入りやすくなる。そうして地方に住んでる人もパーツを通販じゃなくてお店で見て気軽に買えるようになったら、最高。

 

雑にしないこと

100均のアイテムで電子工作する人も増えましたよね。ギャル電の活動によって、始めるハードルを下げられたと感じることはありますか?

ギャル電

ワークショップをするとき、最初は工作好きの子ども向けの依頼のお話が多かったんです。でもギャルに限らず大人の女性も参加してくれるようになった。「電子工作に興味があったんだけど、ギャル電ぐらいのスタンスだったらやってもいいかな」と幅広い年齢層の人が増えてきたのはよかったなと思いますね。

 

ギャルは派手だしパワーがあるので、「自分にも作れるかも?」と感じそうです。

ギャル電

でも、見た目だけで「自分では作っていないんじゃないか」と言われることもあって。ギャルもそうじゃないですか。はみ出していて自由に見えるけど、見た目のせいで批判されることもある。そこにはすごい親和性があって「なるほどね。ギャルはこういう気持ちだったんだね」とギャルカルチャーへの理解が深まりました。

ギャル電はギャルをテーマにしているけど、いわゆるギャル全盛期にギャルだったわけではない。最初からいたわけじゃないカルチャーのところに入ってアイコンを借りていると思っているから、ちゃんと調べるしディテールを都合よく無視しないようにしています。

ギャルに限らず、たとえばスケボーならパークを存続させるために無茶苦茶がんばった先輩がいて、今遊遊んでいる人もそれを引き継いでカルチャーを続けている。自分がどんなインフラや歴史のうえに立っているかというのは先人へのリスペクトとして忘れないほうがいいし、自分がお世話になった分は違う人に返したほうがいい。

そこは雑にしたくないところだと思っています。

 
雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(石川大樹・ギャル電・藤原麻里菜著/オライリー・ジャパン)。

「雑」について、改めて考えられるお話を伺った前編はここまで。後編では、ギャル電さんはなぜギャル文化を愛するようになったのか?「雑」と言われても動じないマインドを持つのはなぜ?を探ります。お楽しみに。

[取材・文]樋口 かおる [撮影]西田 香織