【後編】竹田ダニエル
キラキラはリアルじゃない。Z世代が投げかけるのは本質的な問い?
不安の中で生きるためのセルフケア・セルフラブとは
2023.12.14
経済の仕組みや、消費行動や、働き方、生き方に至るまで、これまで社会の中で常識とされてきた価値観を疑う問いを社会に投げかけているZ世代。
前編では、竹田ダニエルさんに日本とは文化的背景の異なるアメリカのZ世代を取り巻く状況について伺いました。後編では、絶望の中をサバイブするために欠かせないセルフケア・セルフラブの考え方も含め、Z世代的価値観をさらに紐解いていきます。
「打たれ弱い」「仕事よりもプライベートを優先しすぎ」などとネガティブな受け取られ方も多い世代ですが、その考え方の本質に迫ってみると、年齢を問わず多くの人が抱えている悩みや違和感を言語化するヒントが見えてきます。
( POINT! )
- 絶望していることが「普通」という共通認識
- 「みんなもそう思うよね?」と共有できるプラットフォームの大切さ
- SNSに対する「共感疲労」
- キラキラやポジティブはウケない?
- Z世代の背景にあるサバイバル意識
- 「自分たちはものを買わされている」という自覚
- 「Z世代の代弁者」ではない
メンタルが不安定で絶望しているのが「普通」
前編では、アメリカのZ世代の社会運動の背景に「必然性と緊迫感」があるというお話を聞きました。
竹田
アメリカのZ世代は不安症・うつの割合が多いともいわれています。それは、自分のメンタルの状態に自覚的になったことで診断数が前世代に比べて増えている側面もあると思いますが、やはり置かれている時代や環境の違いはありますよね。前編でも触れたように、気候危機、銃乱射事件、不景気などさまざまな不安にさらされていることにパンデミックが追い打ちをかけたと思います。
こうなってくると、むしろ精神的に何らかの疾患を抱えていることは普通で、アイデンティティにもなっている節があります。何か問題がない人は「ただ単に自覚的ではないだけ」という感覚。だからこそ、セルフケア・セルフラブの大切さが叫ばれていて、セラピーに通うことは珍しくなくなり、TikTok上でカジュアルに発信する人も増えました。
もともとセルフケアという概念は、アメリカで1960〜1970年代に活動していたブラックパンサー党のメンバーが、活動を持続可能にしていくために形成していったとされています。アクティビズムに参画していくなら、自分のメンタルヘルスも大事にしなきゃいけないと、セラピーを受けたり、コミュニティの中でケアをし合うといったところから広がっていったんです。
抑圧を受ける中で培われてきた考え方なんですね。それが今のZ世代にも受け継がれていると……。
竹田
でも今、実際にはメンタルの平穏は全然保てていないし、みんな精神的にとても不安定だと思います。ただ、メンタルが不安定なのが「普通」、絶望していることが「普通」という共通認識があるという感じです。
9時から5時の働き方はクレイジー?
最近、アメリカの若者の投稿がTikTokで話題になっていました。9時から5時の仕事で働いていると、シャワーも浴びたくないし、自炊もする気力もないし、何もできなくてクレイジーだと問題提起をした投稿でした。Z世代の働き方への考え方を象徴するようなものだなと思ったのですが。
竹田
彼女はすごく混乱して泣いていましたよね。「みんなもそう思うよね?」と共有できるプラットフォームがあるのは、私はすごく大きなことだと思うんですよ。
昔は辛いと思っても「友だちには負け組だと思われたくない」みたいなブレーキがかかって、共有できる場所がなかった。今はTikTokなどのSNSがあるので、全然知らない人たち同士で「あなたが誰かはわからないけど、私も全く同じ考えだよ」と連帯できるようになりました。
「Z世代は打たれ弱い」と言ってくる人がいたとしても、「私たちの世代は40歳年上の人たちに比べて経済状況が全然違う」「資本主義のシステムのなかでどれだけ媚を売って働いても生活がよくなるわけじゃない」と反論のための言葉を一緒に磨き合えるわけです。
たしかに、苦労しても見返りがある世代ではないから当然ですよね。
竹田
より、本質的な問題に気づいて掘り下げるようになっている世代だと思います。
デジタルネイティブだからこそのSNSとの向き合い方
本質的といえば、Z世代的価値観では、消費をするときにそのモノの背景にある物語や情緒的価値を大事する傾向があるとも聞きました。
竹田
たとえばセルフケア、セルフラブの領域でいうと、「資本主義的な考え方からは抜け出さなければならないよね」という議論が延々続いているフェーズだと思います。
セルフケアのアイテムとして、美味しいチョコレートとか泡風呂とかフェイスパックとか、そういうものが消費する商品としてはわかりやすいし人気も得やすい。でも、売るためにパッケージングされたものを手にとっても、「私たちが困っていることの根本的な解決になっていないよね? 」と思う人が増えている。
それよりは、インナーチャイルド(心の奥底にある感情、感覚)をどうヒーリングしていくか、というスピリチュアル寄りのものが注目されるようになってきていて、物質的な消費を伴うキラキラでポジティブな打ち出しがウケなくなってきている。ミレニアル世代にはインフルエンサーがおすすめしているものに共感する文化がありましたが、今は「SNSはフェイク」「リアルじゃない」という反発もあって、共感疲労(Relatability fatigue)もすごく話題になっています。
SNSが当たり前の世代だからこそ、その向き合い方にも新しい視点が生まれているんですね。
竹田
「自分たちはものを買わされている」ということにすごく自覚的になってきています。これは、SNSがどんどん企業がモノを売るためのプラットフォームに変わってきているから。「あれを買え」「これを買え」と常に言われていると、やっぱり疑うようになるわけですね。
オピニオンリーダーではない自分にできる唯一のことは
ずっとZ世代のお話を聞いてきましたが、年齢問わずあらゆる人が今の時代に向き合うべき課題を内包していると思いました。竹田さんご自身もZ世代ですが、上の世代に知って欲しいこと、伝えたいことってありますか?
竹田
あんまりオピニオンリーダーみたいなことは言いたくないんです。取材の機会をいただく時には「Z世代の代弁者みたいな書き方は絶対やめてください!」といつも言ってます。
それにZ世代といっても、置かれている環境によってそれぞれ違います。私が代弁できることなんてないんです。ジェネレーション・レフト(※左傾化する若者を指す)という言葉も聞かれるけれど、私が住んでいるカリフォルニア州はアメリカで最も過激な左派がいる地域なので、所変われば同じ世代でもまた異なった価値観があるわけです。
また、セラピーに通うことがZ世代では珍しくなくなってきたと言いましたが、経済状況によって受けられるケアは当然異なってきます。ホームレス状態にあったり、有色人種としての社会的トラウマを抱えていたりといった人こそケアが必要なのに、社会保障制度上でも差別を受けていると診断を受けにくくなってしまう。
一つの側面だけではなく、いろんな情報に触れながら立体的に理解していくことが重要ですね。「わかりやすい」に逃げないというか。
竹田
私の意見は、私の意見でしかない。インフルエンサーやオピニオンリーダーになってしまうと、私の意見を簡単に強く言い切らないといけなくなってしまいます。
それよりも、私が新しい価値観や情報をいろんな人たちにシェアすることで、それを受け取った人たちが「ツール」として自分たちの生活の中で使えるようになっていくということに興味があります。私の言葉がモチベーションになったとか、希望を持てたと言ってくださる方がたくさんいるのは本当にありがたいことです。そんな力になっていくことが、私にできる唯一のことなんじゃないかな、と思っています。
[取材・文]清藤 千秋 [編集]樋口 かおる [撮影]中山 京汰郎