【前編】平井 孝志
言葉だけでは見えない「構造と因果」
人はなぜ図で考えるのか
2026.07.09
モヤモヤした考えを言葉にして整理したり、AIを使いこなすためのプロンプトを工夫したり。
「言語化」が注目されています。仕事でも日常でも自分の考えを言葉にする力が重視され、生成AIとの対話も言葉が基本になりました。
しかし、複雑な問題を考えるとき、本当に言葉だけで十分なのでしょうか。
『13歳からの図で考える問題解決』の著者・平井孝志さんは、「言語は1次元、図は2次元」だと言います。図は、物事の「構造と因果」を見える化し、自分でも気づかなかった関係性を見つけるための道具なのだそうです。
では、図を描くことで、人の思考はなぜ深まるのでしょうか。前編では、「図で考える」とはどういうことなのか、その本質について伺いました。
( POINT! )
- 言語は1次元、図は2次元
- 図は「構造と因果」を見える化する
- 論理的思考は「おでん図」から始まる
- 「ありたい姿」に正解はない
- 4つの図は行ったり来たりして使う
- 図を描くことは、自分との対話

平井 孝志
筑波大学大学院ビジネスサイエンス系 国際経営プロフェッショナル専攻 教授。東京大学教養学部基礎科学科第一卒業、同大学大学院理学系研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー、デル(法人マーケティング・ディレクター)、スターバックス コーヒー ジャパン(経営企画部門長)、ローランド・ベルガー(執行役員シニアパートナー)などを経て現職。コンサルタント時代には、電機、消費財、自動車など幅広いクライアントにおいて、全社戦略、事業戦略、新規事業開発の立案および実施を支援。現在は、経営戦略、ロジカル・シンキングなどの企業研修も手掛ける。三井倉庫ホールディングス株式会社社外取締役。『本質思考』、『武器としての図で考える習慣』、『13歳からの図で考える問題解決』(すべて東洋経済新報社)他、著書多数。
言語は1次元、図は2次元
「言語化」が注目されています。平井さんは「図で考える」本を多数書かれていますが、言語化と図解はどんな関係にあると思いますか?

平井
本屋さんへ行くと、言語化に関する本がたくさん並んでいますよね。
SlackやLINEでテキストコミュニケーションをするし、AIに言葉で指示を出すことも増えました。自分のモヤモヤを形にしてスッキリしたい、というのもあります。図解も、モヤモヤしたものを整理したり形にしたりするという点では近いように思います。

平井
言葉を結晶化して、インパクトの強いワーディングをすると、モヤモヤしたものがピンポイントで見えてスッキリしますよね。「そうだ 京都、行こう。」と言われると、イマジネーションも広げやすい。
もちろん、言語には大きな力があります。ただ、図解との関係で言うと、言語は1次元で、図は2次元なんです。
文章のように順番に読むのではなく、複数の要素を同時に見られるのが図なんですね。

平井
文章のように、1次元のなかで論理とか関係性を表現しようとすると難しいんです。図解は基本的に2次元。3次元でもいいんだけど、人間の頭に適しているのは2次元ですね。平面の中に複数の要素を同時に配置できるので、論理とか全体像を把握しやすい。私の好きな言葉で言うと、「構造と因果」ですね。
構造と因果とは何でしょうか?

平井
どんな要素があって、それがどんな関係性にあって、どんなことを引き起こしているのかということですね。それを表すには、2次元の方が自由度があります。形や矢印を使うと、要素の関係性が示せます。それを全部文章でとなると長くなって、どこに何が書いてあるのかつかみづらくなる。
人と気持ちを伝え合うなら言葉が向いているでしょう。でも構造や関係性を共有するなら図の方が向いています。状況によって使い分けられるので、補完関係にあると思っています。
言語は耳で聞いたり、文字を読んだりして理解します。図解は、より視覚を使っていますよね。

平井
文章もかたまりとして図的に理解できますが、図は視覚に直接的に訴えるので、パッと全体像や関係性が見える。結果として思考が深まるんです。
思考が深まる。すると図とは、論理的思考を助けるものなのでしょうか。
論理的思考は「おでん図」から始まる

平井
論理的思考には役立ちます。ただ、それだけではありません。『13歳からの図で考える問題解決』では「おでん図」「田の字」「ループ図」「ピラミッド」の4つの図を紹介しました。一般的に論理的思考の話になると、その内の「ピラミッド」がまず出てくることが多いです。
ピラミッドは、最後に紹介されている図ですよね。

平井
そうです。実はそれが論理的思考の基本とされているんです。ピラミッドは、複雑な情報を「結論(What?)」と「理由(Why)」に整理します。たとえば「売り上げを上げたい」という課題があったら、販売数か価格を上げる。その市場が伸びているなら、その成長に合わせて拡大すればいい。伸びていないならシェアを上げる必要がありますよね。このように、ピラミッドは論理的思考にフィット感があると思っています。
なるほど。ではなぜピラミッドからではなく、最後に?

平井
構造と因果がちゃんとわかってないと、ピラミッドが意味のない分け方になってしまうんです。ですから論理的思考を意味のあるものにするために、「おでん図」から紹介しています。問題を設定して課題の本当の切り口を理解し(田の字)、それが生じている構造と因果を理解したら(ループ図)、やるべきことが明確になるでしょうという順番にしています。
「おでん図」は、視野を広げて目標設定をするものですよね。おでんのような形で、丸の部分が「ありたい姿/目標」。それが意外と難しくて。

平井
そうなんです。個人の場合、「こうありたい」を定めることは、「何を目指すのか」を明らかにすることですよね。そのためには、まず自分は何者なのか、どんな強みを持っているのかも考える必要があります。
カフェの運営でも同じです。今のお店の状況。地域に貢献したいとか、チェーン展開したいとかといった夢。それによって目指す姿は変わりますよね。「この目標が唯一の正解」というものはないんです。
どう決めたらいいんでしょう。

平井
これはもう行ったり来たりして見つけるしかないんですよね。本の中では中学生が「京大に行く」と設定していますが、それも東大でもいいかもしれないし、海外の研究所を目指すのでもいい。
大きく考えながら、自分自身を深く見つめることで「ここを目指そう」と仮説を立てる。そのプロセスこそ、おでん図で考える意味なんです。
行ったり来たりしていいんですね。4つの図は、順番通りに進めるものかと思っていました。
図は「描きながら考える」もの

平井
そんなことはありません。行ったり来たりするのがいいんです。
その時点での仮説を図にすればいいし、環境が変われば軌道修正してもいい。もちろん、頻繁に変えるよりは、ある程度確度を上げて進めた方が労力は少なくて済みますが。
では、おでん図の「ありたい姿」も、変わっていいということですね。

平井
そう思います。私自身もともとは物理学者になりたかったんですが、今なぜか経営戦略の話をしています(笑)。
何がきっかけだったんですか?

平井
少し脱線しますが、学生時代は麻雀ばかりしていたんです。ある日、論文輪読の際、指導教官に「英語が下手ですね」と言われて悔しくて、翌日から英会話学校へ通いはじめました。すると外国人の友達が増えて、世界が広がったんです。そんなとき隣の研究室の友人の誘いでコンサルティングという仕事を知って、「面白そうだな」と思いました。
大学では超電導を研究していましたが、実用化までとても時間がかかる分野です。それよりももう少し近い時間軸で、人が幸せになれることに関わりたいと思うようになったんです。
平井さんのおでん図も途中で描き直されたわけですね。

平井
そういうことですね。図は、完成させることが目的ではありません。描きながら考える、そのプロセスが大事なんです。
図を描いていると、それまで見えていなかった関係性に気づくことがあります。人との対話でも同じようなことが起こりますが、仕組みは似ているのでしょうか。

平井
まさに同じだと思います。人と話していると、「ああ、そういうことか」と要素同士の関係性や全体像が見えてくることがありますよね。
図で考えるというのは、それを自分一人で行うことです。図を描くことは、自分自身との対話なんですね。
図を描きながら考えることで、人は「ああ、そういうことか!」という気づきにたどり着きます。では、生成AIが答えを返してくれる時代に、人間の思考にはどんな価値が残るのでしょうか。後編では、「そういうことか!」が生まれる仕組みと、AI時代に人間が鍛えるべき思考力について伺います。
[取材・文]樋口 かおる [撮影]工藤 真衣子

