雑談は「役に立たない」からこそ楽しい

「雑談は無駄」「特に話すことがないから苦手」という人もいますね。

吉田

コミュニケーションを何かの手段にしがちなんですよね

 

どういうことですか?

吉田

たとえば、他国と戦争をしないために対話をしようとか。それが悪いわけじゃないけど、目的のための対話じゃないですか。

 

黒ラブ

雑談って何かを得るためにするんじゃなくて、普段から雑談してると何かのときにネットワークがつながってってものですよね。

吉田

そうそう。ネットワークがつながってると、「ちょっと困りましたねえ」とか言いながら何か見つかることがある。「雑談は人脈も引き寄せる」みたいなベストセラー本ってよくあるじゃないですか。いらないです。

 

黒ラブ

たしかに(笑)。

結果的にいいことがある可能性はある。でもそれを目的にしてしまうと、いいことがない雑談は「失敗」になりますね。そうではなくて、ただ楽しめばいい?

吉田

雑談だけじゃないけど、人と話すのは面白いからやるんであって、無理してやるもんでもない。たとえばお金持ちの社長になれたとして、社長だから「素晴らしいですね」と言われてもうれしくないですよね。どちらが上とか関係なく喋って「面白いっすね」と言ってもらうときのほうがずっと楽しいと思う。目的のためではなく話すこと自体が目的で楽しいんだから、人生の目的は今この瞬間に果たすことが可能。

 

人生の目的が、今ここでの雑談に

吉田

たとえば、ハインリヒ・ベルによる漁師の逸話があります。漁師が魚を釣っていると観光客がやってきて、こうしたらもっと利益が出て経営者にもなれて、のんびり海を眺めることができると言ってくる。でも漁師は、最初からのんびり海を眺める生活を送っているんですよね。

だったらこの漁師の人生の目的は釣りでよくて、会社を大きくするとかいらない。それで奥野克巳先生とプナン(*1)のところに行ったら魚獲っていて、どう見ても定置網のほうが獲れるのに投網で少しずつ獲ってた。面白いからって。

 
左からニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん、サイエンスコミュニケーターで芸人の黒ラブ教授

黒ラブ

楽しんでるんだね。そういえば、この前大学に行くバスで学生が雑談してて、ノジマでバイトしてるらしいんですよ。「ノジマってすごいんだよ〜」とか話してて。

吉田

メーカー販売員がいない(*2)んだっけ。

 

黒ラブ

そうです。ポイント加算の仕組みも聞けて。学びも得することもないんだけどなんか「幸せだなあ」って思ったんですよね。

わかります。ちょっとしたことをたまたま知るのも楽しいし、それが役に立たないことにも幸せ感があります。

吉田

雑談は「役に立つ」から一番遠いもの(笑)。

 

知らない人と話すと幸せになる?

吉田さんはウェルビーイングの研究をしてますよね。雑談とウェルビーイングも関係ありますか?

吉田

大いにあります。

 

黒ラブ

あるでしょうね。やっぱり大事ですか?

吉田

大事だそうです。電車の中で知らない人に話しかけてくるっていう実験(*3)があるの。

 

それはハードルが高いと感じる人が多そう。

吉田

そう。「知らない人と話す」って、大体みんなちょっと嫌なんですよ。でも、それを乗り越えて話しかけると、ほとんどの人が「話しかけて良かった」になるらしい。ごく稀に悪い人もいるから絶対とはいえないけど、ほぼ幸せ感が上がるという結果が出ていて。知らない人と話をするのは、人生に必要なスキルなのかもしれない。

 

その「ごく稀」を過大評価して、避けていることもありそうですね。AIに話しかける分にはそのリスクがないので。

黒ラブ

AIは安全ですもんね。

人間に声をかける、話しかけるって大変な行為になりつつあると思います。

吉田

大変だしプレッシャーもあるかもしれないけど、まだ我々はAIを感性に取り込めてないと思う。人の考えを聞かないことでのエコーチェンバー効果もこわいよね。

 

黒ラブ

批判もされないし「怒らせたらどうしよう」という心配もないけど、その分刺激も得られないんですよね。

AI時代に肩書きはいる?いらない

黒ラブさんが聞いた学生バイトの話みたいに、雑談の楽しさってふわっと思わぬ情報に触れられて嬉しいみたいなものですよね。雑談に苦手感がある場合、自分には知識がないからとかもありそうです。

吉田

何かを知ってることって別に偉くないんですよね。知ってることによっていろんなことにフラットになっていくことが偉いというか、価値があることなんだと思います。

 

フラットになるとは?

吉田

たとえば私が入っているクイズサークルの人たちは、みんな異常にクイズに詳しくて何でも知ってる人たち。で、この人たちはとても平和なんですよ。

 

黒ラブ

平和?

吉田

いい意味で猛々しい主張がなくて、人は基本的に愚かでものを知らないのだからというフラットな姿勢が身に付いているんですよね。もちろん論破しようともまったくしない。

 

黒ラブ

それはいいですね。身構えがない。

吉田

雑談において論破ってまったく意味ないんですよね。自分とは違う意見に対しても論破しようではなくて、「なんでそう思うの?」って質問だけになる。

 

フラットでいられると、知識の量や肩書きに関係なく雑談も楽しめると。

吉田

肩書きはもう全然いらないと思います。昔はそろばんができたらいい会社に入れたけど、今は特に必要がない。今も算数ができる子は評価されてポケモンに詳しい子は評価されないとかあるけど、もうそんな時代じゃない。AIがある今、評価自体がどうでもよくなるんじゃないかな。

 

黒ラブ

僕は人と人との関係が一番重要になるからこそ、肩書きは大事かなと思っていて。

吉田

肩書きいる?

 

黒ラブ

肩書き自体どうでもいいんだけど、その中でグルーピングできるじゃないですか。たとえば同じ大学の卒業生ということで親近感を持つとか、ニッポン放送で『科学のラジオ』をやってきたことでつながりができたのかなとか。協力してもらうためのつながりではないけど、ふとしたときに相談できるネットワークですよね。生の人間同士が喋るときに生まれるものは絶対あって、これはAIにはできないことなんじゃないかなっていう。

肩書きやコミュニティみたいなものがツールとして有用かどうかっていう話ですよね。対話しようという姿勢は同じで。

吉田

対話しようという姿勢っていうよりも、対話以外に人生の目標ないでしょ。コミュニケーションの目的はコミュニケーションなので。

 

感性OSでウェルビーイングへ

何かを得ようとするのではなく、知識や肩書きで緊張することもなく雑談できるとウェルビーイングに近づきそうですね。

黒ラブ

本当は論文のカルチャーも変えて、雑誌ぐらい読みやすくできるといいなと思ってます。

吉田

『科学のラジオ』でもそれをやろうとしてるよね。イグ・ノーベル賞を取った馬渕清資名誉教授が来てくれた回(*4)も。

 

黒ラブ

すごかったね。

吉田

馬渕先生は人工関節の専門家。「まるでバナナの皮が滑るように滑らかに動く」と論文に書こうと思って先行研究を調べたら、論文がなかった。それで自分で調べ始めたといういい話なんだけど、そこで「人類がこの世にいなければバナナの皮で滑ることがなかった」と言い出したんですよね。意味わかります?

 

人類がいないと?ちょっとわからないです。

吉田

バナナの皮で滑るには、平滑な平面が必要なんですよ。

 

人類しか平面をつくらないということですね!面白い。雑談で知る・気づくことの面白さを実感しました。

吉田

そういうことを突き詰めていくと、一つひとつ繋がってて面白いなって思う。そして人間がなぜ自然界の人工物を見分けられるかというと、それはわからない。わからないけど人類が生きてきたことを踏まえると、科学より感性のほうが重要だった可能性がある。でも、いまだに「感性OSで生きるのはやめて合理的に生きろ」みたいなことを言う人もいるんだよね。

 

黒ラブ

雑談も感性の仕事でしょうね。感性を殺さなければ雑談が楽しめるようになって、ウェルビーイングに近づくのかもしれないね。

ポッドキャスト番組『科学のラジオ』から生まれた書籍『雑談でわかる相対性理論』。吉田さんと黒ラブ教授のアインシュタイン雑談を楽しみながら相対性理論やブラックホールについて知ることができる

[取材・文]樋口 かおる [撮影]工藤 真衣子