「パワーポイントは雑談の敵」

ポッドキャスト番組『科学のラジオ』は、相対性理論などむずかしいことを楽しく伝えてくれます。2人の役割はどんなものでしょうか。

吉田

「真実」って面白いじゃないですか。でも、その面白さにたどり着くまでは面倒くさい。その過程を楽しくしてくれるのがサイエンスコミュニケーターの黒ラブ教授。一方、ラジオアナウンサーの私の頭の中にはいつもリスナーがいます。黒ラブ教授に「リスナーはわからないかも。別の言い方できる?」とかお願いしながらやっています。

 

雑談しながらですよね。今回は、その「雑談」部分にどんな意味があるのかを聞きたいです。雑談について雑談しましょう。

黒ラブ

それなら、よっぴーさんに聞きたいことがあります。『科学のラジオ』を始めるとき、僕は「パワーポイントで説明する」って言ったじゃないですか。

吉田

大学の先生ってパワーポイント好きだよね。みんな鉄拳さんみたいなフリップ芸をやってる。

 

黒ラブ

そうですよ。そしたら「だめ」って言われてサイエンスコミュニケーションのノウハウが一旦崩れたんですよね。なんで?

吉田

パワポって雑談の敵だと思ってるんで。「27枚目を先に出したほうが面白くない?」となっても変えにくい。ラジオ屋で雑談屋の私からすると、人間が何を面白く思うかって事前にわからないんですよ。生放送だったら、その日の天気で喋り方も喋る内容も変わります。要素や順番が固定されてると、面白くならない。

 

黒ラブ

たしかに順番が決まっちゃう。順番通りでなくてもいいし、本当は「わからなくてもいいよ!」なんですよね。

吉田

わからないことをわかるようにするために、パワポがあるわけでしょ。だったら、わからないことに対して「わからない」って言える人がいれば、いらないと思うんですよね。

 
ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん

「リズムが大事」。効率的でなくても、誰にでも開かれたものが雑談

お客さんの顔を見て落語のネタを決めるみたいなことですよね。

吉田

私が落語に毒されすぎていることもありますね。

 

黒ラブ

いいと思います。科学の研究者がいる狭いコミュニティでは「間違えたことは絶対言わない。勉強してから発言する」というカルチャーがある。権威性みたいなものですね。

吉田

もちろん専門家同士の話には価値があります。専門用語は長い説明なしに一言で正しく伝わるから、コミュニケーションコストを下げてくれるもの。

 

専門的な会話には雑談の「雑」はいらないと。

吉田

そう、専門家の会話は効率重視なんですよね。雑談は誰にでも開かれたものなので、専門用語でおいけてぼりにしないほうがいい。専門用語が出てくるなら、「それって何?」って聞いてくれる間があるといいんだけど。

 

ツッコミ役がいるといいのかな。黒ラブさんは1人で授業をしたり科学漫談をしたりすることもありますよね。2人のときと違いますか?

黒ラブ

全然違います。

吉田

1人ってけっこう辛いよね。

 

黒ラブ

辛いし、1人よがりになっちゃう。TikTokで反応があったとしても、こっちの思い通りに喋っちゃうし。

1人だとパワポ的で、ルートからそれられないということ?

黒ラブ

広がらないし、リズムができないんですよね。雑談だと協奏できるんで。

吉田

セッションのほうが面白いよね。

 

黒ラブ

セッション怖いですけどね。これを説明したいけどこのリズムだとできない。でもやっちゃえ!みたいな。展開が速すぎて頭がついていかないことも多い。

吉田

休憩中によくチョコレート食べてるよね。

 
サイエンスコミュニケーターで芸人の黒ラブ教授

伝える側が複数いることで、雑談的広がりが生まれますね。伝えられる側としても、ツッコミがあったりしたほうが楽しくなる気がします。

吉田

絶対にそう。すべての授業に進行、司会がいた方がいいと思って。だから全部の授業の司会をしたいんですよね。「それどういうことですか?」って入れながら。

 

黒ラブ

リズムをつくっていくんですよね。授業をする側からするとリズムを刻むと疲れるし、時間内に予定の箇所まで進まないかもしれない(笑)。でも楽しいですよね。

吉田

だって科学が大好きで大学入ったのに、初めて授業で寝たんでしょ?

 

黒ラブ

そうなんですよ。つまらない技術がいっぱいで。

吉田

話をつまらなくする技術がいっぱいだった。

 

睡眠療法としては、高い技術(笑)。

不完全でもいい。世界の謎を減らすこと

「雑」は効率悪いけど広がりができるから、興味を持続できたり関係なさそうなものを結びつけたりできますよね。黒ラブさんがやっている研究者と芸人も、一見関係がなさそう。どちらが先なんですか?

黒ラブ

科学ですね。科学をやっててM-1に出たらスカウトされて。相方と一緒にと思ったけど、相方は「ちょっと人生を無駄にできない」ということで。それで大学4年のとき休学してNSCに入りました。NSCを卒業したらまた大学院に入って。笑い療法士でもあります。

吉田

その話を以前聞いて、黒ラブさんの笑い療法士の先生の本を買った気がします。でも、見つからない…。異常な量の本を買っているのでもうわからない。

 

どれくらいですか?

吉田

漫画を入れると1日5冊くらい買ってるんじゃないかな。

 

1日5冊?読めないですよね。

吉田

全然読めないです。でも必要になったとき、手元にないとどうにもならないんで。この前けんすうさんもXで書いてましたけど、ネットがあっても案外情報って残らないんですよね。情報を残すにはやはり本の形がいいのではないかと。

 

黒ラブ

ネットの情報は上書きされちゃいますね。デジタルデータは10年20年でもけっこうもたないのに、AIのデータとかどうするのかなと思ってます。

吉田

AIのデータがもたないとは?

 

黒ラブ

たとえばAIのキャラクターと仲良くなったとしても、サービス側の都合でそのキャラクターは維持できないし、データベースも変わります。自分で管理するにしても、個人にとってはハードルが高いですよね。

なるほど。吉田さんも黒ラブさんも、「完璧でなくても幅広い対象への興味・関心」があるから雑談でむずかしいことを伝えられるのかなと思いました。

黒ラブ

そういう不完全な人間同士が喋ること自体面白いですよね。雑談っていうと何も得られないような気もするけど、いろんな刺激があって脳を活性化してくれるし。

吉田

大学院で学んだのか本で読んだのか忘れましたが、「説明とは世界の謎を減らすこと」という言葉があったんですよ。

 

黒ラブ

世界の謎を減らすこと。わかるようでわからない。

吉田

相対性理論でも量子力学でも、普通の人からするといきなり全部わかることってない。でも、ある程度でもわかろうとすると、ちょっと謎が減るじゃない。雑談で何かを説明するというのは誰でも入れる入り口をつくることで、入った人はいつの間にか謎が減っている。それってとってもよくない?私はそれが自分の仕事だと思っているふしがありますよ。

 

黒ラブ

そういう意味では、「科学のラジオ」は4年間謎をどんどん減らし続けてますもんね。減らすとどんどん増えるんだけど(笑)。

ポッドキャスト番組『科学のラジオ』から生まれた書籍『雑談でわかる相対性理論』。吉田さんと黒ラブ教授の雑談を楽しみながらアインシュタインの相対性理論を身近に感じられる

『科学のラジオ』でわからないをちょっと変えてくれる吉田さんと黒ラブ教授に、雑談の力について雑談していただきました。雑談ですべてを正しく伝えることはできなくても、入り口を開いてくれる効果がありそうです。後編では、雑談は私たちにとってどんな意味があるの?なぜ私たちは雑談するの?をお話いただきます。お楽しみに。


[取材・文]樋口 かおる [撮影]工藤 真衣子