【後編】神長 恒一×横川 楓×九月
だめ連×資本主義「交流し、比べないで楽しく生きる」
対立を煽る仕掛けにNO
2024.06.27
「働かない」「寝そべる」「つながる」
こんな提唱をするのは、1992年に神長恒一さんとぺぺ長谷川さんが結成した「だめ連」。コスパ・タイパが求められる今、真逆ともいえる「だめ」な生き方が再び注目されています。
稼ぎや推し活アイテム、競わなくていいものまで数値化され序列をつけられる私たち。どうしたら対立を仕向けられてることに自覚的になり、勝ち負けから自由になることができるでしょうか。
前編に続き、神長さん、お金の専門家の横川楓さん、ピン芸人の九月さんによる『だめ連の資本主義よりたのしく生きる』読書会を開催します。資本主義、お金に対する考え方がそれぞれ異なる3人に、交流しながらゆるく語っていただきます。
( POINT! )
- お金をかけずに交流できる
- 資本主義は交流コミュニケーションを奪う
- 競い合い、対立するよう仕向けられている
- 資本主義への適応がしあわせとは限らない
- お金で苦しむ人が減ってほしい
- 格差に抗う方法は様々
神長 恒一
無職、フリーター生活30年。だめ連。そのほかいろいろ活動。子どもの頃は、カエルや虫を捕るのが好きだった。あんまり働かず、寝るのと遊ぶのが好き。週末は、オルタナティブなイベントに行って交流しがち。著書に『だめ連の資本主義よりたのしく生きる』(神長恒一、ペペ長谷川:著/現代書館)ほか。
横川 楓
1990年生まれ。やさしいお金の専門家。明治大学法学部卒業後、同大学院へ進学。24歳でMBA(経営学修士)を取得。「お金のことを誰よりも等身大の目線で分かりやすく」をモットーに、特に若い世代へのマネーリテラシーの普及活動をしている。一般社団法人日本金融教育推進協会代表理事。著書に『ミレニアル世代のお金のリアル』(フォレスト出版)、『お金の不安と真剣に向き合ったら人生のモヤモヤがはれました!』 (横川楓:著、 シロシオ:イラスト/オーバーラップ)。『三億円高校生』(加藤優汰:著/講談社)原案協力。
九月
ピン芸人。1992 年生まれ。青森県八戸市出身。京都大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修士課程修了。事務所無所属。Xのアカウント「九月の『読む』ラジオ」では質問箱を通じて届いたお便りにおすすめコントを添えて回答している。著書に『走る道化、浮かぶ日常』(祥伝社)。
「交流」で遊び、楽しく生きる
『だめ連の資本主義よりたのしく生きる』では「交流」もおすすめされています。今、私たちは交流できてますか?
神長
ああ、そうですね。
九月
いや、そう聞かれたらできてると答えるしかないでしょう(笑)。
交流するためには綺麗な服を着なくてはいけないとか、周りの収入ランクに合ってないと辛いって人もいるじゃないですか。そうじゃなくても交流できることを確認したかったんです(笑)。
九月
なるほど。
神長
そうそう、そういう意味での交流。かっこつけてするんじゃなく「だめでいい」し、「人からダサいと思われてもいい」とかね。そのぐらいのほうが楽になって本質的な話ができるというか。山登りとか海水浴とか、気取らずにお金をかけないで遊ぶ方法を本でもいろいろ紹介したんだけど、いっぱいあるんで。
やっぱり人って心の生き物なんで、悩みを聞いてもらうとか笑い合うこととか重要じゃないですか。資本主義だとそういう交流コミュニケーションを奪われちゃうんですよね。
資本主義的な価値観から離れること自体は1人でもできますが、人がいたほうがいいと。
神長
俺もずっと貧乏生活してたけど、ずっと1人だったらたぶん陰鬱としちゃってたと思う。似たような感じで資本主義を退屈だと思う人と一緒に遊んだり社会運動したりしながら語り合って生きてきたから、結構楽しく生きてこれたっていうのがあるんで。やっぱり交流は大事ですよね。
あれやっちゃダメ、これやっちゃダメに反抗する「だめ」
「だめ」思想が広がったのか、大学や高校に「だめライフ愛好会」が増殖しているのも興味深いです。自然発生的な現象なんでしょうか?
神長
そうですね。最初はたしか中央大学の学生が1人ではじめたんですよ。で、Xとかで話題になって、他の学校にも広がって。活動はキャンパスで鍋会や読書会とか、大学の構内で勝手に畑をやったりしているみたい。
横川
ネットを介して自然に増えていくのが現代的ですね。コロナ禍でオンライン授業が増えて人と対面することが減ったことも関係あるのかな。
神長
それはあるようですね。昔みたいに大学でだらだら過ごすことが少なくなったんで、そういう機会を増やしたいっていうことで活動してる人もいる。大学が「あれもやっちゃダメこれやっちゃダメ」って堅苦しくなって、立看も出せないとか学園祭でお酒が飲めないとか。楽しく自由にやってるといろいろ言われそうとか、辛そうにしてれば許されるだろうみたいな雰囲気があるんで、抗う人が出てくるのも当然ですよね。
九月
最近Xなどで、従来のサークルよりもゆるくつながりあえる学生の集団みたいなものは増えてるんですよ。テニス、軽音、野球、サッカーみたいなかっちりした目的のある組織では扱いきれなかったもの、たとえばぬいぐるみを集めて並べるだけとか、今まで名前がついてなかったもの。「だめライフ」もそれらの延長といいますか、きっと理解しやすいものに見えているんだと思います。
「だめ」という言葉の対象が広いですもんね。何やってもいいし、テニスができなくてもいい。1人で勝手にやってもいいし、他の人がいてもいいという感じ。
九月
そうそう。
神長
たしかに昔のサークルは種類がだいたい決まってて、よくわからないのってあんまりなかったね。
対立を煽られていることに自覚的に
よくわからないものだと、あまり競わなくていいかもしれない。好きなことをやってるはずがいつのまにか競争に巻き込まれていることってよくあるので。
横川
推し活の世界でも、いかにグッズをたくさん持ってるか、どんな祭壇を作るかで競っているような状況がありますね。そのためにお金が足りなくて困っている人も多いです。
九月
競争に乗らなくてもいいんですけどね。競争に見えるもの、自分にあてがわれるあらゆる数直線は、結局どこかフィクションじみたものなので。理由なく巻き込まれた数直線からは降りていいし、無視していい。そのことにみんなもっと自覚的になったらいいのに。
横川
若い世代だと特に、目の前の世界が中心になってしまって難しいかも。そもそものマネーリテラシーもなかったりします。推し活を楽しむために、計画的に「推し活貯金」をしてほしいと思っているんですが。
みんなが競争に夢中になってくれたほうが市場が盛り上がるんですよね。
横川
本当にそうです。
九月
だから対立をわざと煽ったりするわけですよね。SNSだったら、自分となじまない意見の投稿が表示されやすいようになっていたりするわけです。イラッとして反論したくなる話題がすぐ上がってくるようなアルゴリズム。そうやって対立を増やすと、みんながSNSを使う。するといっぱい広告を見てくれる、というからくりですよね。
神長
うんざりしちゃうね。この間、鼻の毛穴を消したほうがいいっていう広告が表示されたんだけど、もうビジュアルがひどいのね。目に入ってもなるべく見ないようにして。
九月
それこそ資本主義ですよ(笑)。きっとまた表示されます。鼻を見てくれる人なら顎もいけるだろうとか。ほっぺ、歯、後続はなんぼでもあります。
神長
そこまでしてお金儲けするってちょっと考え直した方がいいですよね。人々のコンプレックスを強化して、よくないですよ。それで、うつになる人もでてくる。
「人より優秀かどうかなんて、本当はどうでもいい」
競争に巻き込まれやすいシステムのなかで、お金や序列にあまり縛られず生きるにはどうしたらいいでしょうか。
神長
お金に首根っこ掴まれちゃってるから、できるだけお金の依存度を下げることが必要ですね。なるべく消費しないことでより楽しく生きてく。ハク付けをやめるとかね。人よりイケてるかどうかなんて、本当はどうでもいいことなんで。資本主義的じゃない生き方、世界があると当たり前の希望を持つことが重要ですね。その希望を生きていく。そのほうがいい人生を送れると思います。さすがに今はそういう生き方を選ぶ人が増えてきていて交流しきれないぐらい。そういう時代になってきている。
資本主義にはまっちゃうと極端な話、たとえば電車で人身事故があったときに何にも思わないようになっちゃうんですよね。それは心を奪われてるっていうこと。だから適応しない方がいいんですよ。
自分から見ると資本主義に適応してる人ほど不幸な気がします。
九月さんと横川さんは、お金がなくても楽しく生きられますか?
九月
僕は可能です。でも、所詮僕は1000年後にはいないし、宇宙から見たらあんまりにもちっちゃいので、お金があろうがなかろうが、もっと言えば楽しかろうが楽しくなかろうが、どっちでもいいんだろうなとも思います。そのぐらいのスケールですべてをやんわり相対化し続けたいです。
横川
ものごとを図る尺度がお金である以上、私はお金が必要だと思います。それが別のものに変わるのであればまた別の楽しみ方が見つかるでしょうけど。私は今推し活や友だちと美味しいものを食べに行くことを楽しいと思っていて、それにはお金がかかります。お金がすべてではないけど、お金の問題でやりたいことをあきらめる人は減ってほしい。
九月
資本主義という観点でみると違うことを言っている我々ですが、メリトクラシー(業績や能力による人の格差)について考えると、実は3人が言ってることはかなり重なるのかなと思います。横川さんは「お金の知識は誰にとっても得がある」と言っているし、だめ連の活動もメリトクラシーへのカウンター。僕は僕で、定められた数直線に乗らず勝手にやろうということなので。今日の総括じゃないですけどね。あれ、今の発言が総括に使われたりします?
[取材・文]樋口 かおる [撮影]工藤 真衣子