過去へのタイムトラベルはできるのか

「失敗したから時間を巻き戻してやり直したいな」と考えることがあります。過去へのタイムトラベルはできないのでしょうか?

BossB

アインシュタインの一般相対性理論によると過去へのタイムトラベルは理論上可能ですが、さまざまな問題があるので今はできないというのが私の考えです。

マルチバースがあるならできるかもしれません。でも、その場合過去から戻るのは元いた自分の世界ではなく、過去に行くまでは同じだったけれど、そこからは分岐する、別の世界になります。

 

「マルチバース」は私たちの宇宙のほかにもたくさんの宇宙が存在するという概念ですよね。映画のテーマなどでも最近よく目にするんですが、研究上の進展があったんですか?

BossB

進展があったといえば量子コンピューターですね。量子コンピューターの開発が進んできました。

 

そうですね。「量子コンピューターは計算がものすごく速い」くらいの認識ですが。

BossB

量子というのは現実を作るとても小さな存在、位置と動きにも幅があります。量子コンピューターはその量子の性質を活用しますが、計算がものすごく速いのはマルチバースの他宇宙で計算した結果を干渉で戻しているからという解釈が可能になります。その影響でマルチバースの存在を支持する物理学者が増えました。それでも大多数ではないですが。

 
出典:Adobe Stock

過去が変えられなくても、視点を変えれば未来は変わる

今いる宇宙のほかにも宇宙があると想像するとワクワクしますが、「ちょっと過去を変えて戻ってくる!」とはいかないんですね。
過去の選択を悔やんでクヨクヨしてしまう場合、宇宙思考ではどう考えますか?

BossB

まず、物理的に過去は変えることができません。もし過去に戻ってほかの宇宙に行くことができたとしても、自分自身は変えられませんよね。でも、自分の未来は変えられる。

 

どういうことでしょう。

BossB

変えることができない過去を自分がどう解釈するかで未来は変わっていくということです。私たちが過去にしたことを誰も覚えていなかったとしても、物理的にはその軌跡があるので、過去からつながる今は変えることができないけど、自分がどんな視点で過去の連なりを見るかは変えられるじゃないですか。

私たちの頭にあるのは過去すべての軌跡ではなく、その軌跡を脳が解釈したもの、過去の物語です。だからどんな物語を自分の脳に残していくかによって、自分の未来が変わっていく。

 

たとえば、AとBの道があってAを選んだとします。「Aを選んだ」過去に対して、「Bを選べば良かった」という解釈を加えた物語が脳に残っているとか。

BossB

はい。「Bを選べば良かった」ではなく、「Bが正しい選択だったと学べてよかった」と思う。失敗を失敗として解釈するのか、それとも自分が変わるためのきっかけだとポジティブに解釈するのか。どちらの物語が私たちの頭のなかにあるかで未来は大きく変わってきますよ。

 

逆にネガティブな解釈癖がついてしまっていることも多いかもしれません。

BossB

多いですね。日本には「人に迷惑をかけるな」という文化があります。自分がどうしたいか以前に周りの目を気にしなければいけないような。他人の物差しで自分を測ってしまっています。

 

人生の目的はキャリアで成功することやお金持ちになることではない

YouTubeチャンネル「天文物理学者BossB」の「量子テレポーテーション:あなたって何?なりたい自分を創る」より

新卒のタイミングで就職に失敗すると安定した職を得にくいこともあって、「レールを外れる」ことに対する不安も根強いです。

BossB

仕事に関していえば、私は子育てで7年間何もやってません。他に3年間研究していなかった期間もあるので、10年間のブランクの後アカデミアに復帰しました。ラッキーだったのかもしれないけど、そういう事例がもっともっと増えても良いと思います。

 

その選択について、後悔したことはありますか?

BossB

1ミリもありません。人生の目的はキャリアで成功することやお金持ちになることではなく、人生の喜びは他のところにあるような気がするんです。日本の一般的な生き方とはズレている私の生き方も、発信の要素になっていますね。

TikTokをはじめたときも、ほとんど誰も理解してくれませんでした。半分バカにし「なんでTikTokなんかやってんの?」みたいな。こういう風に取材を受けることも増えて、私の声が段々伝わるようになっただけ。でも、私の場合は周りに理解されようと思ってやってるわけじゃないし、理解できない人もいずれは理解できるよくらいに思ってます。私のBossは私なので、自分で決めます。

 

自由で独立した生き方にエンパワーメントを受け取る人もいれば、「あの人は強いからできるけど、自分にはできない」と線引きする人もいますね。

BossB

好きなことをして風当たりが強くなって、失敗する可能性も高いけど冒険する人生を選ぶか、不満足だけど我慢して安定を選ぶか。みんな天秤にかけてるんだと思いますよ。天秤にかけて安全な方を選ぶなら、それはその人の生き方。それをそうじゃないだろうって言うのもおかしいし。

そして、仕事は楽しくなくてもいいと思うんです。

 

なぜですか?

BossB

生きていくために最低限働いて、好きなことをして生きる。でもろくに給料がもらえなかったら、辛い道になりますよね。もちろん仕事と楽しいことがくっついたらより良いですが、そうはいかないこともあります。だからベーシックインカムなどで人間が人間らしく生きられる社会制度を整えることも必要だと思います。

さらに、個人的には受験制度を破壊したい。まるで面白くない受験勉強も、出た学校で給料が決まるような社会も変えるべきだと思います。

 

未来は予測できないけれど、創ることができる

そうですね。これからはAIによって仕事がなくなる不安もあります。共存するために、大人と次の世代はどのように変わればいいでしょうか。

BossB

子どもはみんな生まれながらにして天才でAGI(今後実現が期待される汎用人工知能)なので心配ないですよ。変わらなきゃいけないのは大人です。大人はAI化して思考停止しています。

 

大人がAI化している?

BossB

過去の例に従って、言われたことだけやっている人が多いですよね。

 

そうかもしれません。AIが何でもやってくれることで、より人間の創造性が失われたり、能力が衰えたりするのではないかとも思いますが。

BossB

それはちがいますよ。たとえば『マトリックス』みたいに瞬時にAIレベルで情報にアクセスできるようになったら、私たちの可能性は解放されます。

まず、脳というこの小さな温かい空間で、インターネットの情報を処理できるようになったら、現在の学校教育はほぼ無意味になりますよ。知った上で、何ができるか?が大切であることを、大人たちも理解できるようになるでしょう。そしてもっと新しいアイデアが生まれ、想像もつかない創造が自由にできるようになると思います。

従来の仕事がなくなることは良いこと。まず大人は働くことに生きがいを求めるような価値観を捨てるべき。「働くことで社会に貢献しているから自分には価値がある」という誤った価値観です。人間は人間だから価値があるのであって、赤ちゃんでもお年寄りでも同じです。まず大人が考え直して、価値観を変えないと。

 

価値観は変わるでしょうか。

BossB

変わるのか変わらないのか。未来は予測できないのでそれはわかりません。でも変わると信じて、発信と教育をしているところがありますね。

 
YouTubeチャンネル「天文物理学者BossB」の「AGIとAI:今の子供たちがAGIとユートピアを築く」より

[取材・文]樋口 かおる