【前編】BossB
哲学的な問いから生まれ、TikTokで形になった「宇宙思考」
私たちはみんな輝いている
2023.11.16
「大きな視点を持て」
と言われることがあります。目先のことだけにとらわれない柔軟な思考を持つべきだという意味合いですが、なんとなく使っていることも多いのではないでしょうか。
天文物理学者のBossB(ボスビー)さんは宇宙を知ることで視点が増えモノゴトの本質に近づけると言い、科学的な思考法である「宇宙思考」を提唱。ブラックホールやパラレルワールドなど天文物理学のトピック、そして愛と自由をパワフルに伝えるTikTokやYouTubeは大人気となり、SNS総フォロワー数は現在64万人です。
すべてであり、私たち一人ひとりのなかにもある宇宙。「宇宙思考」とはどんな思考法で、なぜ生まれたのでしょうか。BossBさんに伺います。
( POINT! )
- みんな自分のBoss
- 個性は誰にでもある
- ありのままで生きていくと、周りもありのままでいいと気づく
- 哲学的な問いから宇宙思考が生まれた
- 現実の1側面しか見えない
- 視点を増やすと本質に近づける
- より良い未来を創れる
- みんな輝いている
人はみな自分のBossである
「天文物理学者BossB」というチャンネル名を見て、最初なんだろう?と思いました。どんな意味がありますか?
BossB
「Boss」は、「人はみな自分のBossであり私は私のBossである」という意味。「B」は「Bitch」の頭文字です。男性が定義する「良い女」ってあるじゃないですか。それに対する「くそ食らえ」の意味が入っていて。その2つで「Boss Bitch (ボス・ビッチ)」。
「Bitch」には独立心を感じます。「Boss」は部下をたくさん従えたBossではないということ?
BossB
日本では「Boss」という言葉に威張ってるイメージがあるけど、そうじゃないんですよ。自分には自分のほかにBossはいないので、こうしろとかこうあれとか人間はこうであるべきとか言う権利は自分以外の誰にもないぞと。この前対談した方が「BossはBossの上にBossを作らず」と言っていましたが、そういうことですね。
以前、名前に「天文物理学者」を入れていなかったら「このおばさんWikipediaを読んでるの?」みたいなことを言われたので、肩書きは嫌いだけどそれも入れて「天文物理学者BossB」と名乗っています。
「科学者が解説します!」という定番的なスタイルではないから。
BossB
眼鏡に白衣というスタイルは科学者っぽくて話を聞いてもらいやすいかもしれないけど、それはやりたくなかったんですね。物理学者は白衣を着ないし、ふだんの派手な自分のままのほうが「女性」や「理系」といったカテゴリーのステレオタイプを打ち破るきっかけにもなるんじゃないかなと。
大学の教員である私もSNSの私も何も変わらない。その私自身が、社会の「こうでなければいけない」という差別構造を崩していく要素になると思っています。
哲学的な問いから、宇宙に興味持った
発信するときにキャラ作りをすることがありますが、BossBさんは自分の個性をそのまま出していったんですね。
BossB
そうですね。個性は誰にでもあるものです。みなさんも自分の個性をありのまま出すことで自由になって生きやすくなるし、社会的効果もあると思います。
どんな社会的効果ですか?
BossB
勇気を持ってありのままで生きていく人を見て、周りの人は「ありのままでいいんだ」と気づくことができます。
たしかに。BossBさんの発信からは、そのためのパワーをもらうことができると思います。そもそも、天文物理学とはどんな学問なのでしょうか。
BossB
天文学は何千年も前からある科学で、古代から農業のための季節の把握のために発展しました。そして天の動きの観察から、ガリレオもニュートンも宇宙をつかさどる法則が地上の私たちをつかさどる法則と一緒だと気づき、万有引力の法則や運動の法則の発見につながりました。
天文物理学は物理学の法則を使って、いわゆる「宇宙はどうなってるの?」を探求する学問です。
『宇宙思考』という本を書かれていますね。宇宙思考は研究のなかで自然に生まれたのでしょうか?
BossB
私が宇宙に興味持ったのは「自分はなぜ存在するのか?」という哲学的な問いからです。大学院に進むときに天文物理学か哲学かで考えて、フルの奨学金をもらえた物理に進みました。でも、哲学という進路もありえたんですよ。
そして銀河の形成と進化についてスパコンで計算したり教員をやったりするなかで、ふと原点に戻って哲学的な問いをしたくなっている自分がいたんですね。それは年齢を重ねて自分が本当にやりたかったことをやれる立場になったからでもあるし、コロナ禍で家に籠っていて自分の内面に向き合ったからでもあります。
発信するなかで気づいた「宇宙思考」
そのタイミングでTikTokをはじめたんですか?
BossB
TikTokをはじめたときは学生の団体と一緒にやっていたし、科学の面白さを伝えることと女性のエンパワーメントを主な目的としていました。その後、学生には負担が大きかったので私だけで発信するようになりました。そこで目的をより広げ、自分が生きていて何が楽しいかを発信しはじめたところ「あ、これは自分のやりたいことだ」と気づきました。
私は何を言いたいんだろう、何か一生懸命言ってることがあるなと思って、まとめたものが宇宙思考です。
宇宙思考とは、どんなものでしょうか
BossB
私たちが知り、理解できることは、対象物をどう観察するかどう見るかの方法に依存しています。見えるのはその方法に依存した現実の側面だけ。それは宇宙の探求でも身近な現実でも同じで、私たちは思い込みでしか本質を推しはかれないじゃないですか。
現実の1側面しか見えてないということをまず理解し、今の自分たちの限界を知るべきではないかと。それが宇宙思考のステップ1です。知ったからこそ次のステップに移れる。つまり、視点が限られているせいで見えない部分があるのならば、視点を増やせばいいのではないかということです。
視点を増やすにはどうしたらいいですか?
BossB
自分にないものに出会うしかないです。未知の探検であったり、自分の殻を破ることであったり。話したことがないような人と話すことであったり、自分が考えたこともないような世界に飛び込んで行ったりすることで、新しい視点を得ればどんどん本質に近付いていけます。それが宇宙思考のステップ2。
宇宙にも無限の可能性があり、私たちにも無限の可能性があります。だから私たちは未来を知ることはできないけれど、視点を選んでより良い未来を創っていくことができます。これが宇宙思考のステップ3です。
私たちはみんな輝いている
SNSは「時間を奪う」などと言われることもあります。BossBさん自身も偏見を持っていましたか?
BossB
持ってましたよ。「友達の友達の友達でつながって」みたいな世界は嫌いでFacebookとかも「無理!」みたいな。最初にTikTokを見たときも無理だと思ったけど、コロナ禍でアメリカやドイツの知っている先生や先輩方がYouTubeチャンネルを持って対談していたり発信したりするのを見て、日本でそういうことをやるのも新しいんじゃないかなと思い直したんですね。
それでSNSでの発信をやってみたら、どっちに進んでいくべきかの方向性がもらえたし、自分を発見できました。他の人にもおすすめしますね。
動画でよく「みんな輝いてるよ、ピース」というメッセージをいただきますね。私たちは、本当に輝いているのでしょうか?
BossB
物理的には人も猫も、土だってすべてが輝いてるんですよ。温度があるものはすべて光を発しているので、あなたも宇宙も輝いているんです。その輝きが見えないとしたら、見える適切な波長を選ぶ、つまり視点を変えればいいということです。
「他人と比べて自分は輝いていない」と思うことがあります。
BossB
比較しては駄目。ノーベル賞を取った人が輝いているとするのか、お金がない人は輝いてないのか。そういう問題じゃないです。それは社会や誰かの物差しで測った輝き。
誰にも言われなくても自分がやってて楽しいとき、心が躍るとき、力が湧いて来るようなとき、何も考えずにそっちの方に進めるとき、そんなときがより「輝いてる」ということかなと。多かれ少なかれみなさんにあると思いますが、他人に評価してもらうのではなく、自分で評価すること。
自分の価値は自分で決めるということ?
BossB
そうです。自分の価値が他の人にわかるはずがない。10の28乗個の原子で出来ている私たちですよ。地球上に1人として同じ人はいないんです。そんな自分の価値を他人の物差しで測らせてはいけません。まずそれに気づいたとき、自分の輝きが見えはじめるんだと思います。
宇宙思考が生まれた背景と、私たちみんなが持つ輝きについて伺った前編はここまで。後編ではマルチバースやタイムトラベル、変えるべき価値観について引き続きBossBさんに聞いていきます。お楽しみに。
[取材・文]樋口 かおる