ダサいファッションも、「なんかいいな」

前編で、「無駄づくり」とは?という点を伺いましたが、藤原さんの作品についてもう少し詳しく伺いたいと思います。「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」「“バーベキュー”と投稿されると五寸釘を打つマシーン」などは、日常会話の中で感じた、煩わしさや嫉妬など、ややネガティブな感情から端を発しているのでしょうか?

藤原

やっぱり自分がネガティブな人間なので、そういう気持ちをおもしろおかしく昇華できるような人間になりたいな、と思っていて。無駄づくりをはじめる前、もともとお笑いの養成所に行っていたことは述べましたが、何がなんでも芸人になってやるとかではなく、面白いことをやれる人でいたいな、とは思っていました。ただ最近は、ネガティブな気づきから入ることはあんまり無くなってきたかな。このへんも変わってきています。

いずれにせよ、つくったものを見てくれた人が嫌な気持ちになるのはやっぱり嫌ですし、誰かを馬鹿にするようなアウトプットは考えたことないです。やっぱり自分が一番下の、底辺の人間だと思ってるから……。たとえば、すごくダサいファッションや、着古して穴の空いたTシャツを着ているような人がいたとしても、「なんかいいな」と思っちゃいます。ただ、それ自体について考えたりはしますけどね。穴を塞ぐマシーンってできるかな、とか。

何より自分自身が笑いたいので、その作品で自分が笑えるかどうかはけっこう大事なポイントです。

 

自分が「底辺」という感覚がある?

藤原

小・中学生の頃、当時の「2ちゃんねる」がすごく好きで見ていました。そこには、「底辺」から世間を見て「こういう人たちが羨ましいよね」みたいな感情を露わにして、自分の奥底にある欲求を面白おかしく言語化していくみたいな文化があったんです。そういうのに結構感化されているのかもしれないなとと思います。

 

アイデアはどんなに小さくてもいい

それがネガティブなものでもポジティブなものでも、ご自身の感情と向き合って、それをメタ的に見ながら無駄づくりをされているのかな、と思いました。

藤原

なんか、私は結構自分のことについて考えるのが好きかもしれないですね。紙のノートに、今思っていることとかやりたいことなんかを書き出していったりするんです。日記も毎日つけてて、そこにやりたいこととかを書いて忘れないようにしています。

 

自分の感情と向き合って、それを素直に表現できないという人も多いのではないかと思います。自分の「好きなこと」を封印してしまっているというか……。

藤原

私も鬱のときはなんにも興味が持てなくて、好きなことなんて何も無い、思いつかないという状況になったことがありました。そんなときは、毎日「アイデア」を考えるようにしていました。革命を起こすみたいなすごいアイデアじゃなくて、もっと小さいものでいいんです。「明日はインドカレーを食べよう」とか、そういうレベルのものです。それを考えるときは、ちょっと心が動くんですよね。

明日あれをやろう、今月からこれをやってみようみたいなアイデア出しを30分くらいカフェでやったりなんかすると、ちょっとはワクワクできるようなものが浮かんでくる。そしたら、それを有無を言わさず実行します。だから、「好きなこと」って漠然と考えるんじゃなくて、小さなアイデアを形にしていくことからはじめられるんじゃないでしょうか。

 

1日5分でも自分の好きなことを続ける

有無を言わさず実行するって、すごくシンプルで力強いメッセージだなと思いました。

藤原

自分の嫌いなことしかずっとやっていない人というのは、たぶん、どうがんばっても自分の好きなところにはいけない気がしているんです。自分の好きなところに行くためには、好きなことをやり続けないといけないんですよね。

フルタイムの仕事をしていて忙しいとか、いろいろな事情は本当にわかるんですけど、1日5分でも10分でも、自分の好きなことをする時間を見つけて続けていくのがいいと思います。たとえば、1日5分小説を書くと決めたら、1年でだいぶ書けると思うんですよ。ゆくゆくはその小説がすごい新人賞を取るかもしれないし、もし賞が取れなかったとしても、小説を一本書きあげたこと自体が素晴らしいじゃないですか。その小説によって自分の内面を知ることができたわけですし。あとは単純に、書くことを楽しんだり、つくるのが楽しいというワクワクする時間を味わったりするのも大切なことです。

小説みたいなものづくり系じゃなくても、プログラミングでもWebサービスでもコミュニティづくりでも、料理でもいい。本当に1日5分、クセにしちゃうといいんですよね。なんか、太宰治が実は毎日めちゃくちゃルーティーンを大切にして生活してたって聞いたことがあって。

作品も人生も退廃的だし、めちゃくちゃな暮らしだったのかと思いきや、毎日作業場にお弁当を持って通って、決まった枚数を書いて家に帰るみたいな感じだったそうです。他にも漫画家さんとか創作系の人って、情熱のおもむくままにわーっと取り掛かっているようなイメージを抱きがちですけど、実はけっこう毎日コンスタントに積み重ねている人が多い気がします。

 

コツコツ、日々の積み重ねって軽視しがちですが、着実に形にしていくということが大事なのかもしれないですね。

藤原

たとえ形にならなくても、無形のもので全然いいと思いますよ。自分の好きな空間をつくるために模様替えをしてみる、とか。なんかこの作業してると心が落ち着くな、というようなことを1日5分でもやっていると楽しくなるんじゃないかな。

 

コスパとタイパの先にあるもの

世の中的には、コスパやタイパという言葉に表されるように、価値や有用性を重視する風潮が強まってきているように思います。好奇心が育まれるような「余白」がどんどん失われているように思うのですが、藤原さんはどう思いますか?

藤原

コスパ・タイパ思考のおかげで、逆に余白ができるはずだと思うんですけどね。AIの発達も私にとってはありがたくて、「こういうプログラミングがしたいんだけど」とお願いして出してもらって、それを試す、ということもしています。それで、今まで1時間かかっていたものが10分でできるようになったら、50分も時間が生まれるわけじゃないですか。その50分でみんなは何やるの?という話だと思います。

昔、ミニマリストの人とテレビ番組でいっしょになったことがあるんですけど、その人はほぼ家電を持たないという暮らしをしていて、それで空いたスペースに何を置くのかというと、自分の好きなフィギュアをめちゃめちゃ置いてるんですよ。なんか、そういうのいいなと思って。断捨離した後、だだっ広い無の空間のままでも全然いいんですけど、その人は冷蔵庫を捨ててもフィギュアは置きたいんだと。それがなんか面白い。

それと同じように、いろんなことを効率化していって自分の時間を捻出したら、そこであなたは何をするのか?ということが問われているんだと思います。

 
藤原さんの著書『無駄なことを続けるために ― ほどほどに暮らせる稼ぎ方 ―』(ヨシモトブックス)、『考える術 ― 人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71 ―』(ダイヤモンド社)。

[取材・文]清藤 千秋 [編集]樋口 かおる [撮影]武藤 奈緒美