レゴは形が変えられないからこそ、おもしろい

これまでプロフェッショナルとして、たくさんの作品をつくってきたと思います。作品をつくる上で、大事にしていることがあれば教えてください。

三井

作品を見た人に「これ、レゴでつくってあるの!?」と意外性を持って受け入れてもらうこと、あるいは「レゴでつくってあるからこそおもしろい」と思ってもらうことを大切にしています。

 

見た人がびっくりする作品とは、具体的にどのようなものなのでしょう?

三井

わかりやすいのは、大きな作品ですよね。ちょっと離れているときは、大きな絵画や何らかの素材でできた像のように見えたものが、寄ってみると「え!? これレゴなんだ!」ってなるじゃないですか。

自由に作品をつくるにせよ、企業からの依頼でつくるにせよ、ビジネスで作品をつくる以上は人に見てもらうことを前提にしなければなりません。ですので、いちがいに「このスキルがあれば、レゴのプロフェッショナルとして生きていける」と言えるスキルはないのですが、大きい作品をつくるスキルは大事だと思っています。

ただ、小さなカスタムメイドのギフトをつくることをビジネスの軸にしている方もおられるので、絶対に大きな作品をつくるスキルが必要かと言われれば、そうではないんですが。

 

でも、どれだけ大きな作品でも、分解してしまえば一つのブロックになりますよね。その形は決まっていて、削ったり引き伸ばしたりして、形を変えることはできません。

そういった意味で、木や粘土のような素材と比べると、自由度が低いという見方もできると思うのですが、「もうちょっと自由に形を変えられたら、もっといろんなものがつくれるのに」と思うことはないですか?

三井

パーツ同士をどう組み合わせるかを考えることはあっても、形を変えたいと思うことはないですね。ある程度の制約がある中で、いかに工夫し、表現するかが勝負だと思っています。

 

「0から1」ではなく、「1から10」を生み出す楽しさがある

それがレゴで作品をつくることのおもしろさなのですね。

三井

そうですね。そして、「見る側」にとっても「単純な形をしたブロックの組み合わせ」であることが、作品を楽しめる要素になっていると思います。

というのも、たとえばかなり写実性の高い絵を見たとき「美しいな」「すごいな」とは思っても、「自分にも描けるかも」と思う人ってなかなかいないと思います。直感的に、あるいは経験的に高い技術力が必要となることが理解できるからですね。

一方、レゴ作品の場合は「見たことのあるパーツの組み合わせ」なので、「組み合わせ方さえ理解できれば、自分にも真似できるかも」と身近に感じられる。つまり、再現性を感じられるわけですよね。だから、見る人も親近感を持って楽しめるのだと思います。

 

ゼロから何かを生み出すのではなく、「すでにあるもの」同士を組み合わせることによって、これまでになかったものを生み出すおもしろさがある。

三井

0から1を生み出すことは、たしかにとても魅力的です。でも、簡単ではありません。絵画の技術を高めるためには、単純な線を繰り返し描くような訓練が必要だと思うのですが、レゴの場合はそういった訓練は必要ない。簡単に言ってしまえばブロックとブロックをはめるだけなので、手先が器用である必要もありませんからね。

それに、作品づくりにおいても、まったくのゼロからブロックの組み合わせ方を考えることはありません。ビジネスの世界でも「ゼロイチで何かを生み出すより、既存のアイデアを組み合わせて、新たな価値を生み出すことの方が効率的だ」と言われることがあると思いますが、レゴの作品づくりってまさに「既存のアイデア」の組み合わせの連続なんですよね。

かつて誰かが考えた組み方と、それとは別の既存のアイデアを組み合わせることによって、新たな表現方法を生み出しているわけです。つまり、「0から1」ではなく「1から2」、あるいは「1から10」を生み出す点に、レゴのおもしろさがあると思います。

 

「ドラゴンの何をかっこいいと思うか」に、個性が宿る

誰かのアイデアと、また違う誰かのアイデアを組み合わせることによって、自らの作品の個性を生み出している?

三井

そうとも言えるかもしれませんね。レゴの作品って、とても作家の個性が出るんですよ。SNSとかで作品を見ただけで「あ、これはあの人の作品だな」と、すぐにわかります。

 

とてもおもしろいですね。単純な形のパーツの組み合わせが、見てすぐに誰の作品かわかるような強烈な個性を生んでいる。

三井

そのとおりです。たとえば、ブロックの表面には丸い出っ張りがありますよね。その出っ張りを「ぽっち」というのですが、ぽっちを表に出さないようにブロックを組み合わせる人もいれば、そこにはこだわらない人もいます。あるいは、曲面を表現する際のパーツの選び方や、組み合わせ方にも作家性が表れます。

 

ブロックの選び方につくり手の個性、つまりは「作家性」が表れる?

三井

作家性は、対象物の「どこをどう切り取って表現するか」「どこにこだわるか」にも表れると思っています。たとえば、ドラゴンをレゴでつくるとして、「ドラゴンのここがかっこいいから、ここを強調しよう」「羽を広げているところが好きだから、その姿を表現しよう」と考える。

その人なりの「ドラゴン像」が固まっているからこそ、それが表現に反映され、作品の個性につながります。他方、「何をつくるか」だけを考えていると、その対象物の「どこをどう見せるか」まで踏み込めず、作家性が表れた作品にならないことが多いですね。

 

レゴは個性について考えるための、かっこうの教材とも言える気がしました。教育の現場でレゴが利用されるケースがあると聞いているのですが、レゴで遊ぶことは子どもたちに何をもたらすのでしょうか

三井

レゴブロックで作品をつくることは、自ら個性に気づくきっかけになると思っています。ドラゴンをつくることを例に出しましたが、最初はただドラゴンをつくっているだけだった子が、「この部分ををこう変えたら、もっとかっこよく見えるかもしれない」と、考えるようになると思うんです。

それは、自分にとっての「ドラゴンのかっこよさとは何か」、あるいは「ドラゴンの何を表現したいのか」を考えることでもある。つまり、自らがさまざまな対象物をどうとらえているのかを、見定める作業でもあるわけです。そして、そういったモノの見方の違いにこそ、その人らしさが表れます。レゴで何かをつくるプロセスには、モノを見て、それをどう感じ、いかに表現するかを考えることが含まれるからこそ、おもしろいと思いますね。

 

よい作品を生み出すために「そのモノらしさ」をとらえる

三井さん自身は、レゴで何かをつくるとき、その対象物をどのように見ているのでしょう?

三井

「なぜそれがよく見えるのか」を考えるようにしています。たとえば、ある建物をレゴでつくる場合、その建物のどこがかっこいいんだろうと考える。仮に、窓枠がかっこいいと思ったとしましょう。そこがいいと思うにはなにか理由があるはずです。

「なんでかっこいいんだろう」と考え、「他の建物と比べて、窓枠の重厚さがかっこいいんだ」と思ったら、その重厚さをレゴで表現することにこだわり抜くようにしています。

先ほど言ったように、パーツの形を自由に変えられるわけではないので、対象物のすべてを100%表現できるわけではありません。そういった制約の中で、見た人に「かっこいい」と思ってもらうためには、対象物のどこが特徴なのかを正確にとらえて、そこを強調して表現する必要があるんです。

 

なるほど。モノの特徴をとらえ、それを表現することがそのモノのよさを伝えることにつながると。

三井

もちろん、それ以外の部分はどうでもいいわけではありませんし、手は抜きません。でも、たとえば建物の場合、窓枠の形を完璧に表現すると、たくさんある窓の数を不自然にならない範囲で減らさなければならない、ということがあるんです。

レゴで何かを表現する際に大事なのは、対象物を構成する要素を分解し、どの要素の表現に力を入れるべきか優先順位をつけることだと思っています。

 

見る人を驚かせる作品をつくるためには、「そのモノらしさ」をしっかりととらえる必要があるのですね。

[文]鷲尾 諒太郎 [撮影]須古 恵 [取材・編集]小池 真幸